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月と珊瑚(2020課題図書 小学校高学年の部)

 

月と珊瑚 (文学の扉)

月と珊瑚 (文学の扉)

 

 沖縄に住む小学校6年の珊瑚は、ろくに漢字も書けないと東京から転校してきた詩音にばかにされ、漢字の練習を兼ねて日記を書き始める。その日記がこの物語だ。珊瑚はルリバーと呼ぶ祖母と二人で暮らしている。祖母は民謡酒場で歌う歌手で、ママは福岡で美容師をしている祖母からは民謡歌手になるように勧められているが、珊瑚は自信がない。新たな転校生泉月(ルナ)は、美形で珊瑚は見ているだけでドキドキしてしまうが、東京のお嬢様学校からの転校とのことで、男子が苦手らしい。校舎の上を米軍の戦闘機が通るのはいつものこと。同級生の金城亮は、音だけで飛行機の種類がわかる。沖縄戦の記憶、ジュリ(戦前の沖縄の遊女)への蔑視、辺野古の基地移転問題などさまざまな社会問題をからめながら珊瑚の一学期を描いている。社会問題への目配りもあり、感想文ネタは豊富な感じだが、この珊瑚の純朴さみたいなところに、個人的にはちょっと違和感がある。美容師の母親がいるのに、祖母と住んでいるのはなぜ? 子ども食堂を恥ずかしいと感じたりするのがなぜか、もう少し自分で追求すればいいのになど、なんだか珊瑚というリアルな子どもではなく、健気に生きる沖縄の女の子イメージのような気がしてしまった。実際の沖縄の小学校6年生が読んだら、珊瑚って自分みたい、と感じるのだろうか?