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さよ 十二歳の刺客

 

さよ 十二歳の刺客 (くもんの児童文学)

さよ 十二歳の刺客 (くもんの児童文学)

 

 12歳のさよは平家の維盛の娘だ。壇ノ浦で入水したが救われ、密かに奥州骨村荘園で身分を隠して養女として育てられた。現在は当主となった兄さえ真実は知らない。だがさよは、幼いながらもやさしかった父母を殺した義経への恨みを抱いていた。馬に乗り、弓を引きおてんばに育ったさよは、義経が頼朝に追われて平泉に来たことを知る。復習の絶好の機会、兄とともに平泉で行われる流鏑馬にいく許可をもぎ取り、男装して出かけた。そこでほかならぬ義経から息子千歳丸の遊び相手として指名される。女であることがバレてはならないが、絶好のチャンス。さよは作用という少年として仕えることとする。身近で見た義経は貧相で下品。実は母親は旅芸人で、虐待同様に芸を仕込まれながら成長したという、息子の千歳丸が少しでも失敗すると激しく折檻する。さよは、思わず歯向かって折檻が千歳丸を委縮させるだけだと意見するが、なんと義経はそれを認めてくれた。千歳丸の母は、感謝してさよにお礼をしてくれるが、それがきっかけで彼女が平家の血筋であることを知る。計画をめぐらし、義経を殺す準備を進める中、義経に追手がかかり平泉は兵に取り囲まれた。このチャンスに先に仕留めようとさよは義経を見つける。ところが義経はさよが維盛の子だと気づいていて仇討ちをしてかまわないと言ってくれた。維盛は平和を願う武将であった。水鳥の羽音で逃げたという噂はうそ、寡兵で無駄な戦いをして戦死者が出ないように兵を引いた。一度義経を捕らながらも解放してくれ、手を結ぼうと言ってくれたのに自分はそうしなかったのだというのだ。さよは、そんな義経をどうしても討てなかった。そして千歳丸と共に二人で敵兵の中の逃亡を試みる。

復讐の思いに駆られていただけの少女が、戦のために運命を変えられて苦しんでいる人や一人一人の思いを理解する中で変わっていく様子が素直に描かれていて読みやすい。維盛の人物像の解釈も面白かった。歴史的な視点からみればちょっと自由すぎる解釈ではあるかもしれないが、こういう形も良いと思う。