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モノクロの街の夜明けに

 

1989年のルーマニアはチャウシェクス独裁体制下にあった。食料は配給の列にならばなければ手に入らない、電力は不足気味で突然の停電もある。17歳のクリスチャンは、突然スパイになるように命じられる。アメリカ大使館に勤める母を迎えに行って、大使のダンと仲良くなったことが問題視されたのだ。ことわれば何をされるかわからない、命じられた通りにすれば病気の祖父の薬をくれるという。同じ高校のリリアナへの憧れが、思いがけず進展するが、その喜びもつかぬま、二人でこっそり飲んだコーラが密告され、リリアナからスパイよばわりする。だれがスパイかわからない緊張の中で、親友だったルカさえ信じられなくなるクリスチャン。自由へのあこがれを教えてくれた祖父、その言動におびえきっている母。そんな中、密かにきいたラジオから、周りの国がソ連の支配を離れ、自由を手に入れていった。かすかに希望が芽生えた矢先、祖父は秘密警察に虐殺される! 国民の10人に1人が密告者だったという追い詰められた中で、誰を信じればいいのか? 自分自身さえ信じられなくなる切迫した中で、ついに蜂起がはじまる。立ち上がった民衆への軍の発砲の中で、倒れたルカ。逮捕されるクリスチャン、リリアン。ついにチャウシェクス政権を倒すが、その後もすべてが解決したとはいえないことが最後にわかる。こんなにも最近まで、これほどひどいことがあったことを知らなかったが、世界にはまだこうした国がまだあることを忘れたくないし、こうした国にしてはいけない。