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農場にくらして

 

農場にくらして (岩波少年文庫 (511))

農場にくらして (岩波少年文庫 (511))

 

 12月17日は、アリソン・アトリーの130回目の誕生日です。ビアトリックス・ポターなんかに比べると、一向にメジャーにはならない彼女ですが、それでも、20年前にはThe Country Childが翻訳されるなんて、夢にも思いませんでした。

イギリス、ダービシャーの山奥の村で生まれ育ったアトリーの初期の自伝的作品。農場の少女スーザンのなにげない日常の暮らしが描かれます。

春夏秋冬の季節の巡りとともに展開する農場の暮らし、それを受け止めるスーザンの心、いずれをとっても、この上なく愛おしい、すばらしい作品だと思います。

アトリーの一つの特徴は、「時間」の扱い方です。「時の旅人」に結実したように、何世代もの人びとが、連綿と積み重ねてきた時の厚みのつながりの中に、自分たちもまたいるのだという感覚は、同じ農場の生活でも、ワイルダーなどには全くない、アトリー独特の、あるいは英国の風土なのかもしれません。

カントリーチャイルドは、それだけでも完璧な作品ですが、スーザンの進学に至る続編もあり、いつかは日本語にならないかな、と思っています。