児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

ゆがめられた記憶

 

ゆがめられた記憶 (世界の青春ノベルズ)

ゆがめられた記憶 (世界の青春ノベルズ)

 

 姉を殺したのではないかと言う恐怖の中に生きているジョニーは、唯一の目撃者ボニーをさがそうとふらつく中で、アルツハイマーの老女ソフィーと出会う。崩壊しかけた暮らしの中でも、明るくプライドを持って生きているソフィーを見捨てられず、ジョニーはその暮らしを助けることになるが、混沌としたソフィーの記憶の中で、ジョニーは癒されていく。崩れまいとするソフィーの姿がなんとも魅力。また、ジョニーが過去とはいかに軽いものであるかを悟るところが圧巻。自分で自分をしばってしまう世代に薦めたい。

僕には世界がふたつある

 

僕には世界がふたつある

僕には世界がふたつある

 

 主人公ケイダンは15歳。家では両親と妹と暮らし、学校では親友もいる。でも、学校にはケイダンを殺そうとする子がいる、マークシートのテストを塗ると、不思議な星座が現れる。そしてケイダンは船に乗る。片目の船長と、片目のオウムが、ケイダンに指示を出す。同室の航海士は様々な地図を描いている。マストの上のカラスの巣では、バーがあって、みんないかしたカクテルを飲んでいる。船首には美しい像カリオペが取り付けられていて、ケイダンは友人になった。学校な家庭と、航海、無関係のように重なる二つの世界の関係が徐々に見えてくる構成が、とても魅力的。船の掃除をしているカーライルが、ケイダンにとって希望の星となる。たった一人の力で、世界で一番深い海峡の底にたどり着き、そこから戻る方法を見つけるクライマックスは、なんとも圧巻。精神病の主人公の内面世界を描いた異色作だが、安易なハッピーエンドではないが、とても希望にみちていて魅力的。

きみはしらないほうがいい

 

きみは知らないほうがいい (文研じゅべにーる)

きみは知らないほうがいい (文研じゅべにーる)

 

小学校6年の米利(めり)は、おばあちゃんの家に行く途中で転校してきた同級生昼間くんと出会う。何となく「どこへ行くの?」と聞いた米利に昼間くんは「きみは知らないほうがいい」と答えた。これは、ふつう知りたくなるよね! というわけで昼間君をつけて、彼がクニさんというホームレスとおしゃべりしていることを知る。だが、昼間くんはクニさんをホームレスと言いたくないようだ。両親が早く死に、兄にばかにされなぐられながら成長したというクニさん。米利のおばあちゃんは、一人暮らしをしているが、気力を無くし、一日中テレビを見ている。まじめな昼間君を、クラスメイトはからかう。米利は5年生の時、みんなから無視されて学校に行けなくなったことがある。特別に何かをされたとも言えないけど、誰も話しかけてくれない空間に耐えられなくなったのだ。昼間くんと一緒にガード下のクニさんのところにいることを目撃してうわさをたてられ、無視されてまた学校に行けなくなった米利。一方、昼間君は突然行方不明になるが戻ってくる。学校での息苦しさが丁重に描かれているが、こんなとき、ふと思うのは加害者側の内側を書いてみてくれないかな、だ。繊細な一人の女の子の成長物語、として、今どき本を読む子なら米里の気持ちを寄せるのだろうが、ここを耐えて少しづつ前に進んでみようって、これでいいんだろうか? タイトルや長谷川集平の挿絵が魅力だが、現在、米利の祖母の年齢の作者は、自分の小学時代を思いつつ描いているのだろうか? どことなく切実さがありつつも観念的にもおもってしまう。 

がんばりかあさんと6人の子どもたち

 

がんばりかあさんと6人の子どもたち (1984年) (ポプラ社の世界こどもの本)

がんばりかあさんと6人の子どもたち (1984年) (ポプラ社の世界こどもの本)

 

 ニュージーランドの実話をもとにした物語。酒乱の父親からのがれた母親と6人の子どもは、オーストラリアからニュージ^ランドへと渡る。ゼロからの出発にもかかわらず、お母さんは、自分の居場所と財産を築いていく。特に、資産を築くため牛を奥地に売りに行くところは圧巻。ドキドキハラハラで読みやすいが、シリアスな背景を考えると、イラストは内容に合わないように思う。

まじょのくに

 

まじょのくに (こどものともセレクション)

まじょのくに (こどものともセレクション)

 

 ヒロミちゃんが外を見ていると、お月様に映る影が・・・魔女です! ところが魔女が落ちてしまったので行ってみると、ほうきが折れてしまったのです。ヒロミちゃんが、直すのを手伝うと、お礼にほうきにのってまじょのくにに連れて行ってもらえました。ほほうびにほうきをもらい、まじょの子どもとほうきに乗って楽しい時間を過ごしますが、出された魔女のごちそうは、くもやさそりやカエル。気持ち悪くてほうきで逃げ出しました。次の日ほうきに乗ると、もうほうきは空を飛んでくれませんでした。柚野氏の絵に味があり、ストーリーも素直で、子どもに喜ばれる。

キキとジジ 魔女の宅急便 特別篇その2

 

 キキが生まれたすぐ後にやってきた黒猫のジジ。自分がおにいさん気分のジジが主人公になって、さまざまなエピソードが語られる。キキがほうきもどきに乗った途端に空中に浮かんだのに、おいてけぼりにされた気分になったり、キキが魔女になることを迷ったり。一人っ子のせいでちょっと引っ込み思案なキキの姿など読者の共感を誘いそう。特別のドラマはないが、サイドストーリーとして楽しく読める。

ゆうれいは魔術師

 

ゆうれいは魔術師 (あかね世界の文学シリーズ)

ゆうれいは魔術師 (あかね世界の文学シリーズ)

 

 孤児のタッチは、両親が死んでしまったのち、孤児院を抜け出し、大叔父に会いに行った。ところが、途中で乗った馬車で幽霊だという魔術師が現れる。その明るい様子に心惹かれるが、幽霊は消えてしまった。そして出会った大叔父は、強欲でみんなの嫌われ者。タッチは自分に親切にしてくれたかじ屋と宿屋のサリーが、大叔父さんに狙われていることを知る。実はタッチに残されていた遺産の秘密、サリーに仕掛けられた大叔父さんの罠、危機を救ってくれる魔術師の幽霊と楽しく読める。