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夏の朝 2015 課題図書 中学生向 

 

夏の朝 (福音館創作童話シリーズ)

夏の朝 (福音館創作童話シリーズ)

 

 中学2年の莉子は、祖父の一周忌に母の実家に行った。庭の見事な蓮を見ているときに、祖父のいとこという老女に蓮の咲く音についてきかされ、ぜひ、その音を聞きたくなる。幸い夏休み、実家の片づけを手伝うということで泊まらせてもらい、早朝庭に出た。ところが、蓮が咲くと同時に、不思議な体験をする。祖父の生きていた時に戻っていたのだ。次の日は、さらにその前へと、徐々に時をさかのぼり、祖父に出会う。そして亡くなった母の子ども時代の姿と出会い、最後には少年時代の祖父にあって、蓮の種を手渡す。古い家を舞台に時をさかのぼるタイム・ファンタジーは「思い出のマーニー」か「時の旅人」か、といった雰囲気。ちょっと気になったのは、祖父は、自分が何度も会った少女が莉子だと、最後の出会い頃には気づいていたのではないか、と思ってしまう。また、蓮の種を少年時代の祖父に渡すラストは想像できたが、もともと別の沼に咲いた蓮なら、それを時を超えて運んでいかなくてもいいような気もした。イメージは面白いが、口うるさい引き上げの老女や、若き日の祖父の性格描写が弱いきがする。また、最後になって新しい母を迎えた葛藤を描くより、むしろ初めに入れてもらったほうが説得力があるようにも思った。「思い出のマーニー」などと比べると見劣りしてしまうが、これで初めてタイムファンタジーに出会った読者なら、それなりに楽しく読めるだろう。