甲斐信枝さんが10年をかけたという大作。
非常に読みごたえもあり、今後この分野で一つのスタンダードになるだろう。
稲という作物に日本人がどのように向かい合ってきたのか、歴史的、民俗誌的にさまざまなテーマから掘り下げられていくが、情緒的ではなく、事実をきちんと積み重ねていく。
ここでいう「日本人」という枠が、政治的に狭められた国家としての「日本」人ではなく、古来この日本列島で暮らし、中国大陸や朝鮮半島とも密接に関わってきた私たちの祖先というように、とても広い視野で捉えられる。野生稲からはじまる品種の改良の歴史、浅間山の噴火をきっかけにした天明の大飢饉などに代表される飢饉のこわさなど、政治史では見えない日本の歴史の深層がしっかりと捉えられている。歴史だけでなく、植物としての稲にもきっちり目配りされており、幅広く参照のできる優れた絵本だと思われる。
これは全館で買いでしょう。