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神隠しの教室

 

神隠しの教室 (単行本図書)

神隠しの教室 (単行本図書)

 

 クラスで無視され、いたたまれなくなっている5年生の加奈。父を無くしてから懸命に仕事をして疲れている母には心配かけたくない。体が拒否反応を起こし、腹痛で保健室に保健係のバネッサと向かうと、そこは無人。気が付けば、学校中が無人だが、4年生の亮太、1年生のみはる、6年生の聖哉の5人だけになっていた。ブラジル人で、生まれた赤ん坊の子守のため、学校をやめなければならないかもという不安をかかえているバネッサ。父が単身赴任いで2年もかえってこず、生意気だといじめられている亮太、若い母親の恋人に「しつけ」として虐待をうけているみはる、そして不安定な母親にネグレクトされている聖哉、みんな現実の世界から逃げたい思いを抱えていたからここに来たのか?と不安が広がる。学校の中にあるものは現れる。だから給食は食べられる。養護教諭の小島早苗は、自分がきにかけていた子がいなくなったことに不安を感じた。そして、自分もかつていじめを受け、もう一つの学校に行ったことを思い出す。子どもたちが、漂流記もののように、なんとか暮らそうと工夫する世界と、親たちが心配するこちらの世界。なぜおこったのか、どうやったら帰ってこられるのか、というミステリータッチの展開で読ませる。気になるのは、途中、一度消える聖哉。伏線もあって、なかなかいいのだが、ラストの聖哉の解決が、もう少し母親との関係を整理して書いてあったらよかったのに、と思った。いじめのようすがちょっとあいまい、わりと解決もうまくいくなど、欠点はあるが、古い校舎が、年を経て、力を宿し、子どもたちを守るために「神隠し」をおこすというのは、ちょっと説得力があるかも。読書も「神隠しの教室」かもね。