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ヒトラーと暮らした少年

 

ヒトラーと暮らした少年

ヒトラーと暮らした少年

 

ピエロの父はドイツ人、母はフランス人で二人はパリで暮らしていた。だが第一次世界大戦に従軍した父は戦場で心を病み、酒を飲んでは暴力をふるい家を出たのちに列車に轢かれて死んだ。その後母も病死。親友だったアンシェルの家がしばし引き取ってくれたが、ユダヤ人である一家には余裕がなく孤児院に送られる。まもなく交流がなかった父の妹と連絡が付き、叔母であるベアトリクスに引き取られた。ベアトリクスは山の上の別荘で家政婦をしており、ピエロは名をドイツ風にペーターにしなければならないし、ユダヤ人と友人だったと言ってはいけないと命じる。そしてある日、ついに別荘の主アドルフ・ヒトラーがやってくる。最高権力者に目をかけてもらったピエロは有頂天になり、おとなしく優しい性格から徐々にヒトラーやその取り巻きのものいいを真似るようになっていく。年齢前にヒトラー・ユーゲントの制服をもらって誇らしくなり、自分が重要だと思いたくなり召使を見下す言動をとり始める。ついには親切だった運転手と叔母がヒトラー暗殺計画を立てていることを察知してヒトラーに告げ、二人は処刑された。ユダヤ人の強制収容所建設の話し合いの書記も手伝う。幼馴染の聡明で美しいカタリーナに恋するが、彼女に拒まれると自分のような重要な人物に逆らうのかとレイプしようとし、それをギリギリで阻止した料理人のエマもろとも逆恨みをし、カタリーナは村を追われ、エマも連行された。そして敗戦を迎える。兵士として収容所に入れられた中で、自分が手を貸したことやヒトラーの真の姿に気付き混迷する。人に命令したり、他人を見下す快楽は、こんなに控えめな男の子を狂わせていくのだろうか?とも思うが、実際に戦時中には自分の親を反ナチとして告発した子どももいたという。そういう加害者となり、後でそれに気づき、その罪と向かい合う決心をするということは、ここまで極端ではなくても、子どもの身近に多くあるのではないか? 自分がその立場だったらと意識して読みたい。