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戦争時代の子どもたち 瀬田国民学校五年智組の学級日誌より 岩波ジュニア新書

 

 1944年4月から45年3月まで、滋賀県大津市の瀬田国民学校5年生の女生徒が描いた絵入りの学級日誌を題材にして、当時の雰囲気と、この学校のユニークな教育実践を伝えてくれる本。ただ、どちらかというと“教育実践”に比重が強く、中高生(この日誌を書いていた小学生)が、時代の違う同年代の子ども時代の思いに迫る面は弱く感じた。徹底した皇民教育、戦争に協力することが唯一正しいことであるという社会の中で、まじめにその時代の要請を受け止める子どもたち。「勝ち抜くぞ」「にくいにくいB29」等々、戦争に全力を捧げ、疎開の子どもたちにも親切にしようとする子どもたち。その中で皇民教育を強制されながらも、できうる限り、子どもたちを尊重し、褒め、教科書だけでなく生きる力を育てる総合教育をしようとした矢嶋校長と担任の西川先生。学校が、圧力を増す社会の中でも、子どもたちを守りうるかということを考えた。できれば、実際この学級日誌を書いた子どもへのインタビューがあったら(西川先生への聞き取りあり)、教師ではなく子どもの思いがもう少し伝わったかもしれない。同調圧力がますます強い現代社会での教育のヒントとして、むしろ親や教師にお薦めの本かもしれない。