児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

発明戦争 エジソンVSベル

 

発明戦争―エジソンvs.ベル (ちくまプリマーブックス)

発明戦争―エジソンvs.ベル (ちくまプリマーブックス)

 

 理系で録音技師の経験も持つ著者が、エジソンの宣伝を元に文系作家が量産したエジソン伝に疑問を感じて書いた作品だけあって、実際にエジソンはどういう理解をして何を発明したのかを描いてあり、とても説得力があっておもしろかった。学校教育をきちんと受けていないために技術者の提言を受け入れずに失敗しながらも、宣伝上手でさまざまな発明を自分のものだとしながらも、事業家としては失敗していく姿。彼の激しさを代々の反逆の血筋(なんと祖父はアメリカ独立戦争でイギリスにつき、父は北に住みながら南軍に走る!)、よく他の伝記でも書かれるが子ども時代から近所の小さな子を水に突き落としたりシャボン液を飲ませるなど非人間的な実験をしてのける感性の異常さ(これを天才ゆえと描くほとんどの伝記作家は完全におかしいと思うが、それが通用するのがコワイ)を客観的に描いている。対して宣伝を嫌い、きちんとした科学知識を持って着実に積み重ねていくベルは、結局のところ事業化・商業化にも成功していくようすをみていると、いくら宣伝しても基本や継続性がないとダメなのね、とよくわかる。とはいえ、敵をつぶしまくり特許戦争に血眼になり、暴力団まで使うあくどさながらも、カンがよくやるときはきっちりとやろうとするエジソンの功績もきちんと押さえてある。何より著者は技術者らしく、エジソンやベルが実際にどんな発明品をつくったのかの仕組みを、文系人間でもついていけるように的確に挟んでいるが、これが全体に効果を上げていて面白い。エジソン伝を子どもに読ませたい大人は、まず自分でこれを読んでみるのが良いだろう。