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タヌキのきょうしつ (2020課題図書 小学校低学年の部)

 

タヌキのきょうしつ

タヌキのきょうしつ

  • 作者:山下明生
  • 発売日: 2019/07/16
  • メディア: 単行本
 

明治時代。小学校ができ、その校庭のクロガネモチの木の根元にタヌキの一家が住みついた。タヌキのお父さんは学校をのぞき、勉強に夢中になって夜の学校で、子だぬきに勉強を教えるようになりました。ところがそれが人間に知られて話題となり、教室から姿を消します。やがて戦争がはじまり、タヌキの姿も消えた広島に原爆が落ちた。廃墟になった広島がよみがえったころ、タヌキが交通事故にあうという新聞記事が出た。そして「たぬきのたまご」というタヌキ色に染みた卵がウリのおでんやができた。そこに5人の子どもがその卵を買いに来た。その子たちのお金は葉っぱでした、というお話。作者の山下先生、82~3歳で新作とはすごいですが、自分の思いで書いているようで、子どもに伝わる工夫が弱いと思いました。「タヌキ」「クロガネモチ」「原爆」「戦後復興」と要素を盛り込み過ぎで、予備知識の少ない小学校低学年はついていけるのでしょうか?スタート明治6年。アイウエオを教えていると書いてあったですが本当?とググったところ明治8年のイロハの教科書がでてきました。確かに明治以降アイウエオに移行はしていったそうですが、明治の小学校の教育内容はちゃんと調べたのだろか?とつい思いました。また、タヌキのお父さんは、勉強の何に夢中になって、タヌキの子どもたちはなぜイイコに勉強したのでしょう? これも謎。教頭先生が目撃したせいでタヌキの教室が広まった反省で、先生は誰にも言わずにタヌキの巣に学用品をさしいれして応援した、とあるのに、戦時中、教頭先生の息子ヘイタが、タヌキにおみやげ(としか書いてないが、前を見ると学用品とわかる)を置いてももっていくものはいなくなったとあるけど、息子のヘイタ以外には誰にも、と書くべきだったのでは? とまた首をひねりました。そして戦後タヌキが戻ったことを車にはねられるという悲劇で知るというのも、これで「戻ってよかった」といえるの? 等々、すいません、わたしはあちこちでつっかかりました。原爆を扱いたかったのだろうけれど、原爆の描写で「ひろしま城のへいたいも・・・みんなふっとばされました」ここの兵隊はくろこげの市民とはあえて別の描写にしたのか? 子どもたちがわかる具体的な描写で(たとえば、字が読めるとどんないいことがあるとわかって感動したのかとか)書いてもらった方が良かったと思います。夏休みですから、戦争はいけないと思いました。うちの学校にもタヌキがくるといい。など、何となくの感想文は書けると思いますが。