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お蚕さんから糸と綿と

 

お蚕さんから糸と綿と

お蚕さんから糸と綿と

  • 作者:大西 暢夫
  • 発売日: 2020/01/20
  • メディア: 単行本
 

滋賀県の養蚕農家と真綿づくりの集落を紹介。春と秋で糸の手触りが異なること、繭をつくるための小部屋に蚕を1頭ずつおさめるための蔟(まぶし)というしくみ、まゆの乾燥の目安として入れる椿の葉っぱなどには、人の繊細な感覚や知恵への驚きと、また、まゆをつくり始める蚕が天をあおぐように身体をそり上げる姿には命の神秘を感じる。後半の真綿をつくる過程は、絹糸をとる工程より見慣れないのでさらに驚きと感動。ゆでた繭を直接むいて面状にして乾燥させる。それを丁寧に広げて何枚も重ね合わせていく。人が行う作業にすら神的な美しさが漂う。表紙から裏表紙、見返しの部分にも鮮明な写真を配して、蚕から絹糸と真綿がつくられる様子を紙幅いっぱいに伝える。
ただ、子どもにとって絹の着物や真綿の布団は身近なものではないし、著者の思い入れが写真と文章に語り尽くされていて考える余白がないので、「すごいなぁ」だけで終わらないように紹介したいです。 (は)