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ザ・ヘイト・ユー・ギヴ あなたがくれた憎しみ

 

ザ・ヘイト・ユー・ギヴ あなたがくれた憎しみ (海外文学コレクション)

ザ・ヘイト・ユー・ギヴ あなたがくれた憎しみ (海外文学コレクション)

 

スターはギャングと呼ばれる黒人グループが仕切る荒れた街に住んでいる黒人の女子高生だ。10歳の時、仲良しだったナターシャはギャングに目の前で撃たれて殺された。両親はスターをとても大切にしてくれている。パパは、元キングでスターが小さい頃刑務所に行っていたが、今はまじめに小さな食料品店を経営しているし、ママは看護婦で二人で懸命にお金を稼ぎ、地元から離れた安全な白人が多い学校に通わせてくれている。白人の友人と、白人の彼氏クリスができる。大切な存在だけれど、自分の住んでいる家はとても見せられないという中で、偽物の自分を演じている気分がつらい。そんな中無理に連れていかれた地元のパーティーで幼馴染のカリルに再会するが、カリルに送ってもらった帰り、警官に車を止められる。そしてカリルが何も怪しいものを持っていないのをけんさしたのに、スターの方を心配して振り向いただけで逆上して撃ち殺した。スターはパニックとなるが、それ以上にショックだったのは、カリルが怪しいギャングで、白人警官は全く悪いことをしていないかのような報道がされたことだ。だが、目の前で人が死んだ恐怖で、スターは人前で証言するのに恐怖を感じる! 不当な殺人に怒る地元と、それに便乗して遊び気分で「支援のため」と授業ボイコットをする白人のクラスメートのギャップへの落差。懸命に寄り添おうとしてくれるクリスをどこまで信じていいのか迷う思い。パパが刑務所に行った本当の理由。家族を支えてくれるおじで警官のカルロス。なんとかカリルの不名誉を救おうと、実際に何が起こったかを証言したが、警官は不起訴になり、街には抗議の暴動が発生。どさくさまぎれに商店の略奪も始まる。
時々、ニュースでアメリカで不当に黒人が差別逮捕や警察に殺される事件が報道されるが、その実際の姿が、このように物語として示されると、とてもリアル。逆上して無抵抗なカリルに発砲した警官は許されないが、閉鎖的で希望のない街で黒人たちが荒れているのを恐怖をもって白人たちが見ていることで関係が悪化していくようすはなんともつらい。スターとクリスが互いを理解し、スターの家族が助け合って前進しようとする姿が救い。