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科学と科学者のはなしー寺田寅彦エッセイ集

 

 「科学と文学の双方に通じた」物理学者、寺田寅彦の珠玉の随筆集。自然や生活の事象に対する旺盛な好奇心で、1匹のミノムシやハチから人魂、化け物までをテーマにつづる。しかも、初めての雅楽体験についても毛虫1匹についても、なんて美しい表現をするのかと!

ただ、中学生以上という目安にしては難解な物理学用語の文章もあるので、私のお勧めしたいのは、目次をみて気になるタイトルのページへ飛んでみる読み方。私だと、まず「身長と寿命」身長が低い方なので気になります。何度も読むのは「電車の混雑について」空いている電車に乗る方法について目からウロコなので。「津波と人間」は、37年周期の地球の活動を覚えていられない人間として教訓を思い出すために。
今回、新型コロナウィルスの影響下で考えさせられたのは「蛆(うじ)の効用」でした。「人間や自然の作ったきたないものを浄化する」という蛆。「害の一端のみを見てただちに…無用を論ずるのは、あまりにあさはか」「天然の設計による平衡を乱す」ことの危険、それは現代科学だけでなく思想や習慣についてもいえると警鐘を鳴らしています。  (は)