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水を縫う(2021年課題図書 高等学校)

 

 感想文が書きやすい要素がいっぱいある。刺繡が好きな高校生男子清澄、かわいいものが苦手なその姉の水青(みお)、市役所に勤め、なんでもきちんとやり子どもが失敗しないように守りたいと思うその母、感性は豊かだが生活力が0で追い出された父。その父を雇って仕事をさせ、住まわせて面倒をみてやっている父の友人黒田、つまりこういうふうに説明的に語りやすい。それを素材としてそれなりの感想文に書けるだろう。だが、物語とは本来説明ではなく流れていくもの。だから作者はテーマや主題でくくって欲しくないかも。ちなみに私は水青がかわいいものがきらいになったきっかけが、かわいい洋服を来ていたら、変質者にそのスカートをカッターで切られた事件、ということを読んだとき、最後まで水青はかわいくないことにこだわっていたが、そのせいでいわゆるカワイイ服に生涯拒否感をもたなきゃならないのはあんまりではないかと思った。かわいいものが好きなのは悪ではない。全ての中から自分の気になるものを選び取ろうよ! 作品の中では、血がつながっているわけではないにキヨこと子清澄の父親の役割を実質的に果たす黒田の存在がいい。うまくいかなくても、ちゃんとしていなくても生きていて良いけれど、ちゃんとしたいと思うあまりに子に疎まれる母親だって守って欲しいんだと伝わると良いと思った。