児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

トンヤンクイがやってきた

 

トンヤンクイがやってきた

トンヤンクイがやってきた

 

 中国は長江下流の米どころに住む農民の子ツァオシンは、東洋鬼(トンヤンクイ:日本軍)がやってくる噂を聞く。進軍してきた日本軍のため、ツァオシンの家族も弟以外すべて殺されてしまい、弟もひどいけがの後遺症が残る。一方、日本では武二が、父を失ったものの、母や兄・姉に囲まれ幸せに暮らしていた。だが、戦争は、看護婦の母を徴用してしまう。日に日に乏しくなる食料、厳しい教練が課され、勉強らしい勉強ができなくなっていく学校。中国、日本の両方の男の子の視点から戦争がもたらすものを描いているのだが、ツァオシンのコメの闘いが、とてもおもしろかった。日本軍が徴発に来ると、村中で逃げて日をかせぐ、次には泣き言をいって量を減らすようにする。最後に渡すときは、水を吸わせて重くしたり、砂を混ぜるなど、最小限になるように工夫する。正面切っての戦いではなくても、じわじわとしたこの農民の闘いが日本軍を追い詰めていく様子は圧巻。そして武二も、最終的に東京大空襲で祖父と姉を亡くす。戦争は庶民にとって、どんなに無益かを知るのには良い。また銃や爆薬ではない戦い方は、いろいろ応用できそうな気がした。