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義肢装具士の奇跡の挑戦

 

北京の冬季パラリンピックは、ロシアのウクライナ進攻のために平和の祭典として見ることが難しくなり残念だ。一番つらいのは選手たちだろう。体にハンディがあっても、スポーツに打ち込めるようになった歴史は、まだ長くない。

東京パラリンピックも行なわれ、義足ランナーをごく普通の存在と感じるようになっていたが、それを「ごくふつう」にするために、どんなに大変なことがあったのかを教えてくれる本。後尾善義肢装具士の道を選んだ臼井二美男が、うまく歩けるようになるだけでも大変! という義足装具者が走れると発想し、それを実現させていく過程が面白かった。運動神経に恵まれた義足ランナーだけでなく、その存在を知ることで、自分だっていろいろなことができると気づくことで前を向ける、ということに思わず納得。そして、風を感じて走れる気持ち良さにランナーたちがはまっていくようすもワクワクした。臼井の行動が独断的に見られたというが、正直、組織ならそうした視点が出るのはしかたがないと思う。問題は、それを「だからつぶす」方向にいくのか、「だから支える」方向にいくのか。特定の個人の頑張りでは、継続性はどこかで限界を迎える。最後、白井の存在に憧れて同じ道に入ってきた沖野敦郎の登場は希望だろう。走ることも当たり前となり、それに対応した義足も当たり前になっていく社会を維持していきたい。