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ゼバスチアンからの電話

 

17歳のザビーネは、恋人のゼバスチアンとけんか別れしたまま、父が田舎に買った家に引っ越してきた。

学校へ通うのも何をするにも不便な土地で、一緒に化学の研究に取り組めそうな友だちができるが、父親は進学に反対。期待されている弟の方は勉強が苦手で、母親は父の言いなりだ。

ゼバスチアンと会えない日々の中で、ザビーネは何度も思い返し、考える。ゼバスチアンにとってヴァイオリンのレッスンが最優先で、自分はいつも待って待って、待たされていたこと。電話もデートの待ち合わせも。きみも好きな化学をつづけろよ、と言われていたこと。

やがて、別れの原因は、お互いに自分が自分を失いたくなかったのだと、気づくザビーネ。同じ頃、母親も、おばからの生前贈与のお金を使って、運転免許を取りパートに出たいと考え始めていた。家のローンのために倹約して卑屈に暮らすのではなく、自分に出来ることがしたいと、今までしたことのなかった夫への強い自己主張。

母と娘が、自分の”立つ”場所を手にしたとき、父親も、会社で受ける理不尽な扱いに耐えきれず退職したことを打ち明ける。また一からやり直そう、変わっていこうとする家族。ザビーネも、もう待つのではなく、自らゼバスチアンの電話番号を回していた。

1981年、西ドイツの作品。恋人、夫婦、親子、きょうだい・・・人がお互いにどんなことを思い、考え、何を言ったり言わなかったりしているかを、こういう文学を読んで知ることは、とても大事です。 (は)