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海にはワニがいる

 

海にはワニがいる

海にはワニがいる

 

 アフガニスタンの小さな村で暮らしていたエナヤット。だが、そこではハザラ人でシーア派だという人種と宗教で差別されていた。父親はパシュトン人に殺され、エナヤットも彼らに連れ去られそうになっていた。彼を救うため、母親は10歳の彼を連れてパキスタンに行き、そこで彼を残して弟たちのいる家に戻った。エナヤットは宿で働き、次には市場で働くが暮らしていくのは難しい。イラン、トルコ、ギリシャ、そしてついにイタリアへと移り住み、やっとイタリアで政治難民としての認定を受けて故郷の母親と連絡をとることができたのだが、それは母と別れて8年後のことだった。過酷な境遇の中で、生きていこうと順応し、努力し、頭を使うエナヤット。どこへ行っても安い賃金で仕事をさせられ、なんとかしてもう少しましな仕事にありつきたいと願う様子は、ぜいたくとは言えず、ごくささやかな望みといえるだろう。彼は積極的で、言葉を覚え、学校に行き仕事をしたいと願って行動する。その姿勢が政治難民認定につながっていったといえる。いわば、これだけガッツがある子なら報われてもいいのではないかと思わされる。だが、さらに考えればエナヤットのようにしっかりしていなくても、私たちはふだん普通に教育を受けて暮らせる。実話を元にしたこの物語を読みながら、生まれた場所だけで、ごく普通の暮らしができなくなるという問題を考えたい。