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嘘の木

 

嘘の木

嘘の木

 

 コスタ賞児童書部門、ボストングローブ・ホーンブック賞受賞作。フェイスはヴィクトリア時代に14歳という大人でも子どもでもない時期を過ごしている少女だ。尊敬する博物学者の父の発見した翼ある人類の化石がねつ造だというスキャンダルのせいでロンドンを追われ、小さなヴェイン島へとやってきた。あこがれているのに研究で頭がいっぱいで、フェイスの存在にろくに気付いてくれないような父。自分の美しさの影響力を知りつくして、周りを支配している母。家族の中で唯一フェイスを慕ってくれるのは、幼い弟ハワードだけだった。だが、初日こそ高名な学者として歓迎されるも、ミス・ハンターがスキャンダルを広めたせいで一家はたちまち孤立してしまう。そしてフェイスは父が何かを隠していることに気付く。夜中、父を手伝って謎の植物を洞窟に隠した翌朝、父は死体となって見つかった。みんなが父はスキャンダルで自殺したと思う中、フェイスは死体の不自然さから他殺を疑うが、だれも相手にしてくれない。母は、なんとか事故死の診断をもらって教会で埋葬してもらおうと、医師に色目を使っている! 密かに持ちだした父の遺品から、父が隠したのは「嘘の木」と呼ばれる、人間の嘘を糧に育つ植物で、その実を食べると真実を知ることができると知る。父の死の真相を知るためにフェイスは“嘘”を広める、父の幽霊がさまよっているという嘘、それが成功すると島の発掘は化石ではなく埋蔵金目当てだという嘘。ちょっとしたほのめかしから始まった嘘は島を駆け巡り巨大なものになっていく。そして、その実を食べたフェイスが見たものは・・・。ミステリーのなぞ解きの要素と、嘘が社会をかく乱するさま(フェイク・ニュースのよう)、そして何よりも自由がない時代に、何とかして成長したい、学びたいと願っている少女の物語として魅力がある。特に、物語の終盤、自分だけがこんな思いをしていると考えていたフェイスが、身近な女性たちがそれぞれの戦いを繰り広げていたことに気付くところはとても良かった。特に、未だに差別の多い人生を生きなければならない女の子と、その女の子の実力を率直に認めることができるポールのような男の子に勧めたい。