児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

あまいみずからいみず

 

 温度をあげることで、砂糖や塩を、より多く溶かすことができることを説明。海の水が辛いわけを、地球の生成期が熱く、はげしく海がかきまぜられていたことに結びつけていく。説得力はあるが、溶解から地球の生成のドラマまで広がるまえに、もう少し溶解について説明してもと思った。

うそつきの天才

 

うそつきの天才 (ショート・ストーリーズ)

うそつきの天才 (ショート・ストーリーズ)

 

 テストの落第点を親に見せたくなくて、親のサインを偽造している現場を先生に見られたウルフ。怖くて家に帰れなくなり、家出を決意してしまう。不安でたまらないのに、次々に気楽なウソが口から飛び出してしまう。それでいて、そんな自分をもう一人の自分が記録する「ウソつきの天才」。作文の時間に、ライバルのヨーランとシェークなどおやつをかけたバトルを繰り広げるウルフ。試行錯誤の末、書くことに夢中になって「動物」というテーマで犬のことを書いた。ところがヨーランの作文ときたらメチャウマ! だけどスタインベックのパクリ。それを指摘しようとしたら、先生が、ウルフの作文を「身近なことをそのまま書け」ていい、とウルフに高得点をつけてくれた! だけど、実は僕は犬なんて飼ったことがない(笑)。スタインベックに勝っていい気分になる、児童文学者ウルフのスタートが魅力の「シェークVSバナナ・スプリット」の2作収録。短くて、軽く読めるのに、忘れがたい余韻が残る。読むのがニガテな子にもオススメ。

星のこども カール・セーガン博士と宇宙のふしぎ

 

星のこども: カール・セーガン博士と宇宙のふしぎ (絵本地球ライブラリー)

星のこども: カール・セーガン博士と宇宙のふしぎ (絵本地球ライブラリー)

 

小さいころからいろいろなことに興味をもっていたカールは、万博をきっかけに星に興味を持つようになる。図書館で星のことをいろいろ調べ、勉強したカールは、星の研究家となり、みんなに、星の解説をして、宇宙への関心を高める働きをした。いい雰囲気で、字と絵のバランスもよく、よみきかせに使えそう。だが、最大の欠点は、カール・セーガンが何をしたのか、今の日本の子どもは知らないということ。そして、絵本のこの文章量では、その内容がよくわからないこと。カール・セーガンをテレビで見ていた同時代の子どもにはこれで十分だろうが、解説がないとよくわからないのでは? 

デヴィ インドの13歳

 

学校へいきたい!世界の果てにはこんな通学路が!―デヴィ インドの13歳

学校へいきたい!世界の果てにはこんな通学路が!―デヴィ インドの13歳

 

 

 

学校へいきたい!世界の果てにはこんな通学路が!―デヴィ インドの13歳

学校へいきたい!世界の果てにはこんな通学路が!―デヴィ インドの13歳

 

 テレビのドキュメンタリー番組を基にした写真が多い編集だが、事実を淡々とすすめていくことで、学校に行くために懸命に通学している同世代の子どものようすがわかるのは貴重であると思う。インドは、まだ識字率が低く、デヴィの姉たちは13歳、14歳で嫁いでいるというのは、日本の子どもには想像しがたい現実であるだろう。

古森のひみつ

 

古森のひみつ (岩波少年文庫)

古森のひみつ (岩波少年文庫)

 

 遺産として古森を相続したプローコロ大佐と少年ベンヴェヌート。厳しい大佐は、森を従わせ、少年を亡き者として、自分が全てを手にしようともくろむ。かつて強大な力を誇りながら岩屋に囚われている風のマッテーオを開放することで、彼の力で少年の抹殺をたくらむ。古森に生きる木の精や、風の精たちの雰囲気のあるファンタジーだが、正直読みにくい。挟み込まれる詩のせいか、物語よりもイメージが優先している。こういうタイプの物語を好む子もいると思うが、個人的には苦手。

大どろぼうホッツェンプロッツ三たびあらわる

 

大どろぼうホッツェンプロッツ三たびあらわる (世界の子どもの本)

大どろぼうホッツェンプロッツ三たびあらわる (世界の子どもの本)

 

ホッツェンプロッツが帰ってきた! 脱獄!?と疑うが、行いがいいから釈放された、といって釈放証明書までだしてくる。あやしんだカスパールとゼッペルと警部は、シュロッターベックさんの水晶を使って見張りを続けると、武器や爆薬を運びだして、やっぱりあやしい。だが、カスパールたちが罠を仕掛けて見張っていると、逆にみつかり、きちんと武器などを捨てるところを見てほしいと頼まれる。そして、本当に処分した。その上、おいしいどろぼう料理をごちそうしてくれた! なのにシュロッターベックさんの水晶玉がなくなり、疑いはホッツェンプロッツにかけられる。カスパールたちは、なんとかホッツェンプロッツの無実を証明しようとするが、彼自身が、まじめになろうとしても、いつも疑われる、それに何の仕事をすればいいのかわからない、と落ち込んでしまう。さいごは、水晶玉消失の謎解き、ワニ犬バスティも、犬の姿にもどれ、ホッツェンプロッツは森の中のレストランといううってつけの仕事が決まる。 みごとに大満足の完結です。ユーモラスな物語のそこここに謎解きにも伏線がはってあり、物語の完成度が高くさすが! 大満足ですが、だからこそ「よたび」あらわれて欲しいです。 

大どろぼうホッツェンプロッツふたたびあらわる

 

大どろぼうホッツェンプロッツふたたびあらわる (昭和45年) (世界の子どもの本〈21〉)
 

ホッツェンプロッツが脱獄! 仮病を使い、心配して入ってきた巡査部長のディンペンモーザー氏を倒して脱獄してしまったのだ。おばあさんの家に行ってカスパールとゼッペルのソーセージをみんな平らげ、挙句の果ては、おばあさんを誘拐して身代金を取ろうともくろむ。カスパールたちは、罠をしかけるが、失敗して逆に捕まってしまう。今回の不思議な助っ人は、千里眼シュロッターベックさんと、彼女が飼っているワニ(元はダックスフンドだった)のバスティ。千里眼で隠れ家を突き止められたホッツェンプロッツは、ついに捕まり、簡単には脱走できないまちの監獄に送られ一件落着。警察官の服を一式盗んだことによる入れ違い、うまくだましたつもりなのに出し抜かれるのどたばた、そして千里眼とワニなど、楽しい要素がもりだくさん。続編はだれることがあるが、むしろ勢いがついて楽しい。