児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

チキン(2017 小学校高学年 課題図書)

 

チキン! (文研じゅべにーる)

チキン! (文研じゅべにーる)

 

 常に正しいことをいうためにトラブルになる登場人物という設定は、マンガ原作のテレビドラマにもあった気がする。どのくらい説得力をもってこの設定ができるかが勝負だが、どうも今ひとつ。まず主人公日色拓は、何事もないこと第一という設定だが、日和見というより、争い事が嫌な穏やかな性格。その日色拓の隣に越してきた真中凛は、常に正論しか言わずにクラスでもめるというのがストーリー。凛は、そもそも拓を「チキン(おくびょうもの)」呼ばわりするが、この時点でどうかと思う。本人が正義の味方をきどるのはいいが、他人を決めつけるのはおかしいのでは? 凛の言動のおかげで、いろいろな矛盾が浮かび上がり、一時もめるが最終的には落ち着き、その一端を担うのが、拓の穏やかな性格(凜が熱い給食の鍋をかぶりそうになったらかばって自分がかぶったり・・・といっても実は中身が冷たくて助かったというオチ)。そして凜の行動は、死んだ母親との約束のせいという種明かしになるけど、自分のせいで弟までいじめられてるのに、こだわるかふつう? ともかく表面的に読む分には「凜は極端だけど勇気を見習いたい」とか感想文書いておけばOKそうだが、ちゃんと読むと、母の死を受け入れられなくて、てんぱってこんな極端な行動をとっていた、だけど拓のやさしさの中で、やっと折り合いがついた物語とでも解釈するしかないかも。だけど、お母さんが死んだエピソードがとってつけた感ありすぎ。あまり良い作品とは思えない。

霧の中の白い犬(2017 小学校高学年 課題図書)

 

霧のなかの白い犬

霧のなかの白い犬

 

 ジェシーが住むまちには、徐々に移民が増え、安く働く彼らのせいで、お父さんは仕事も家もなくした。今、アパートに住んで、お父さんはフランスに出稼ぎに行っている。いとこのフランは、昔は仲良しだったけど、両親が離婚したせいで、名門の寄宿学校からジェシーの学校に転校してきて、すっかりお高くとまった感じになってしまった。二人のおばあちゃんは、いつもやさしいけど、最近、ちょっと変。お料理のやり方や、運転している道が突然わからなくなる。そして、突然犬を飼い始めた。真っ白なジャーマンシェパードの子犬だ。前から犬を飼ってみたくてたまらなかったジェシーは、とてもうれしい。親友のケイトは、車いすだが、運動神経抜群で、勝ち気。ジェシーがおばあさんのことを心配する気持ちもわかってくれるが、フランが差別的な発言をしたことに、火が付いたように怒る。そして、おばあちゃんが倒れ、ジェシーには悩みが増える。何かにおびえるおばあちゃん、いやな仲間とつるむフラン。そんな中、歴史の授業で、ドイツの収容所ダッハウから生還したクラスメイトベンのおばあさんの話を聞く、病人や障害者や高齢者を殺し、ユダヤ人を苦しめるためだけに、全てのユダヤ人のペットを殺し、その後、ユダヤ人も殺していった。おばあさんは、その最後に、自分が大切にしていた白い犬をこっそり救ってくれた獣医と、戦後、その犬を返しに来てくれた女の子の話をしてくれた。その時は、あやまる女に子に罵声を浴びせたが、後になって、その小さな好意が、どんなに勇敢であったか、帰ってきた犬のおかげで、どんなに救われたかを実感して後悔する。このベンのおばあさんの子犬を救った女の子こそおばあちゃんであったことがわかり、二人は再会する。あまりにひどい言動ばかりする仲間にたえられなくなって、やっと立ち返ってくれるフロン。外国人労働者に不信の目を向けるジェシーに、自分もフランスで外国人労働者であることを語ってくれる父。冒頭と最後に、そして途中にも挟み込まれる昔話。多くの問題を入れながら、かなりうまくまとめている。児童文学の中で、こうした危機感をもたなければならないのが、今という不安な時代であるのが、ちょっと怖い。

くろねこのどん(2017 小学校中学年 課題図書)

 

くろねこのどん

くろねこのどん

 

 「あめの日のどん」「かぜの日のどん」「ゆきの日のどん」「はれの日のどん」の4冊で出ていた作品をまとめて加筆、絵を書き直したとのこと。「どん」とは黒猫の名前、主人公は女の子えみちゃん。挿絵や描写から小学校の低学年と思われる。雨で遠足は中止、おかあさんはお買いもので、たいくつなえみちゃんのもとに飛びこんできた黒い子猫。「すてられたの?」とはなしかけると「ちがわい」と切り返してくるなまいきなチビ。せっかくミルクをあげたのに、お母さんが返ってきたときにはまた飛び出してしまい。外でであっても「よーい、どん」をするように駆け出していってしまうので「どん」とよぶようになります。えみちゃんが一人の時に現れて、一緒にジャングルごっこをしてくどんがクロヒョウになると、ちょっと怖くみえたり、学校ごっこで、にぼしを使って算数をしたりと、家ネコではないちょっと距離のあるノラ猫どんとの交流は、楽しい。どんと遊ぶイメージで書けば、感想文も書きやすいかもしれない。ただ、ラストどんが来なくなって落ち込んでいると、どんの結婚式に立ち会う、というあたりは、どんが来ないさびしさはわかりやすいけど、どんは大人になったから遊んでくれないのかと思うのだろうか? どんが成長したとしてえみちゃんはどうなのか? そのどんの成長を理解する成長? と、このへんが若干ストンとこない。まとめて書くのは大変かもしれない。

耳の聞こえないメジャーリーガー ウィリアム・ホイ(2017 小学校中学年 課題図書)

 

耳の聞こえないメジャーリーガー ウィリアム・ホイ

耳の聞こえないメジャーリーガー ウィリアム・ホイ

 

 1862年に生まれたウィリアムは、子どもの時に病気になったため、耳が聞こえなくなる。素晴らしい野球選手としての資質を持つが、聴覚障害のために靴屋での仕事についた。だが、その才能ゆえにチャンスがめぐってくる。野球チームにスカウトされたのだ。とはいえ、耳が聞こえないことを理由にして契約金を低くされたり、彼をバカにする選手もいた。さらに審判の声が聞こえないため、審判がボール、ストライクのどちらに判断したかがわからずつらい思いもした。だが、審判にジェスチャーをしてもらえばいいと思いつく。放送設備がない当時、審判が大きなジェスチャーで示す動作をすることは、観客にもとても喜ばれた。また、味方同士で、試合中にサインを送りあうアイディアも出した。耳が不自由な彼が工夫したことが、いまだに野球界で便利に使われているというのがうれしい。絵本的な本で、もう少し背景が知りたいと思わされるが、気持ちよく読めるし、感想文は書きやすそう。

空にむかってともだち宣言(2017 小学校中学年向き 課題図書)

 

空にむかってともだち宣言

空にむかってともだち宣言

 

 母子家庭のあいりの隣のアパートに引っ越してきたのはミャンマー人の一家。同い年の女の子ナーミンとその双子の弟がいて、母親や、母の友人のゴンさんからも面倒をみるよう頼まれる。さっそくなかよくなるが、学校が始まるとクラスの男の子たちが、ナーミンの名前から「難民!」とからかう。実はナーミン一家は、本当に難民だった。だが、先生とゴンさん(実は難民支援をしてた)が難民のことをきちんと説明してくれ、ナーミンが、新聞記者の父が逮捕されて暴力をふるわれたことを話すと、みんなは驚いてしまった。あいりは、ミャンマーのイヴェントに遊びに行き、思いがけず「なかよし大使」に選ばれて感激する。そしてクラスは、学校の発表会でミャンマーの民族バガンダンスを踊ることを提案。踊りは大成功。あいりは、いつまでもナーミンと友達でいると宣言する。これも難民問題をからめた友情もので、感想文はかきやすよう。悪ふざけがすぎてナーミンをからかう男の子たちを叱るのではなく、きちんと難民とは何かを説明して反省させる先生の態度などはよいが、ナーミンもあいりも「いい子」すぎて、ちょっとリアルさが薄い。でも、本当にこういうのを読むべきは、子どもじゃなくて、大人や政治家かも。

干したから・・・(2017 小学校中学年 課題図書)

 

 食べ物にまつわる取材を長年続けている著者のものだけに、よくまとまっている。いろいろな干した食べ物の紹介、作り方、人が食べ物を干すようになった理由などをバランスよくかいてある。自分でも作ってみようというチャレンジもあり、実践的に楽しめる。食べるって生き物の原点❤

なにがあってもずっといっしょ(2017 低学年向き 課題図書)

 

なにがあっても ずっといっしょ

なにがあっても ずっといっしょ

 

挿絵がちょっと稚拙で昭和っぽいが、これはわざとなのか? 主人公はイヌのサスケ。中年(?)のサチコさんの家で飼われていて、サチコさんが大好きだ。道を通る小学生は、勝手な名前で呼ぶ。イヌの言葉がわからないらしい。ある日サチコさんが帰ってこない。不安になったサスケは外に飛び出して探しに行くが見つからない。いつも無視されているネコに「サチコさんをしんじてないのか」と諭された上食べ物をもらったり、帰る道がわからなくなり、小学生に連れ帰ってもらったり、そしてサチコさんが帰ってこなかったのは、急病のせいとわかる。いかにもアルアルなおはなしだが、サスケがちょっと威張った感じのキャラで悪くはない。ベタなはなしだけに、とりあえず、こう書いておけば感想文っぽく見えるヤツは書きやすいかもしれない。「うちもイヌを飼ってますが・・・」とかペットにからめたり、「いつもは知らん顔のネコが実はやさしかったので、みかけと違うと思いました。」とかね。