児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

海辺の宝もの

 

海辺の宝もの

海辺の宝もの

 

 1800年代のはじめ。貝や魚の形をした変わり石を掘るのを楽しみ、それを海辺に来た人にみやげとして売ってささやかな収入にしていたやさしい父。メアリーは父や兄とともに石を掘りに行くのが大好きだった。だが、貝がどうして石になってしまったのか? メアリーには不思議でたまらない。だが、やさしかった父は病気で死んでしまった。若い兄の収入だけでは食べていくのも難しい。だが、偶然が、メアリーに変わり石を売る仕事を思いつかせる。都会から来た科学者たちに、これは「化石」というものだと教えてもらい、メアリーは一つ一つの違いをしっかり見ながら化石の発掘を生涯の仕事として取組み自立していく。自分のやりたいことをみつけ、認められる幸せがうれしい作品。

衛星軌道2万マイル

 

衛星軌道2万マイル (21世紀空想科学小説 6)

衛星軌道2万マイル (21世紀空想科学小説 6)

 

 この「21世紀空想科学小説」シリーズの中では一番SFとしての質が高く面白かった。主人公石丸真哉は月に移住した人類の子孫で、宇宙漁船彗星丸の乗組員。この宇宙漁船の設定がとてもリアルで楽しい。彗星丸がデフリ鮪を追って漁をするシーンからスタート。宇宙の漁? というトンデモ設定を徐々に科学的に説明していくのだが、いきなり説明から始めず、少しずつ解説していくので物語がじゃまされない。実はデフリとは宇宙のゴミ。軍事衛星にひそかに搭載されていた修理用のナノマシンと宇宙嵐の影響で、ゴミを利用して自動で動く生き物もどきが誕生してしまい、宇宙漁船は、それを捕獲し、宇宙空間のメンテナンスをすることで生計をたてているというわけ! この宇宙生物たちがリアルで説得力があり、まさしく海底2万マイルの宇宙バージョンになっている。難破宇宙船からローズとジャックという姉弟(真哉と年齢が近い)を救い、彼らとのからみで暮らしが紹介されていく。そしてラストは、ファーストコンタクトを予感させる大胆な展開で、ワクワクした雰囲気で終了。

キッドナップ・ツアー

 

キッドナップ・ツアー (新潮文庫)

キッドナップ・ツアー (新潮文庫)

 

別居した父親に誘拐されて過ごした夏の毎日。せつなく、きっっちり書かれたロードノベルだが、なぜ、居場所を転々とするの?母親への要求はなんなの?というかんじんな事を、ここまであいまいでいいのだろうか?なにもわからないハルの視点だからにしても、ちょっと無理があるのでは。 

ぼくらはむしさがしたんていだん

 

 よみきかせより、親子で読んで、一緒に虫取りに行くのに役立ちそうな絵本。絵本の中の季節は初夏5~6月くらいか? 最後に虫の地図も作るので、学童とか、幼稚園年長とかの活動として絵本を参考にしてやってみるとよさそう。

大きなかぶ チエーホフショートセレクション

 

大きなかぶ―チェーホフ ショートセレクション (世界ショートセレクション)
 

 表題作は、あの有名な昔話のパロディ。皮肉で悲壮なテイストは高校生くらいから? もともと短編の名手なチエーホフの代表作が入っている(夫がかわるたびに意見が変わる妻「かわいいひと」、避暑地の遊びの恋が深みにはまる「犬を連れたおくさん」など。)。中学生の夏休みの感想文宿題に使うなら、9歳で徒弟に出されてつらい思いをし祖父に懸命に手紙を書く「ワーニカ」あたりかな?

百万ポンド紙幣

 

百万ポンド紙幣―マーク・トウェイン ショートセレクション (世界ショートセレクション)

百万ポンド紙幣―マーク・トウェイン ショートセレクション (世界ショートセレクション)

 

 1800年代半ばに書かれたのが信じられないくらいおもしろいし、星新一ファンの子にも薦められそう。特におすすめは「彼は生きているのか、それとも死んだのか?」「実話一言一句、聞いたとおりに再現したもの」「百万ポンド紙幣」。『彼は・・・』は、死ぬと画家が認められるのを皮肉り、ミレーを死んだことにして売り出して成功する話。『実話・・・』はいつも明るい黒人女性が、語った壮絶な奴隷としての語りをきく。それを明るく語ってのける女性のパワーが魅力。『百万ポンド』は、突然百万ポンドを渡された男がどうなるかという賭けの対象になったまじめなアメリカ男の運命! 『天国だったか? 地獄だったか?」のようにピューリタンを皮肉っているものは、ここまでくると今の日本の子にはややわかりにくいかもと思うが、アメリカの若い時代に現れた野生児マーク・トウェインのパワーが炸裂した短編集でお薦め。

二番がいちばん

 

 D.H.ロレンスの短編集。狙っていた男性を手に入れられなかったが、すかさず二番目をからめとる少女の「二番がいちばん」。破産の後、発作的に入水自殺をした娘を助けた医師が、自分を救う男性として見られて狼狽しつつも彼女を受け入れ「馬商の娘」。浮気者の男を車掌の女性たちが共同でとっちめようとする「乗車券を拝見します」など、リアルに瞬間を切り取ってみせるような短編集。ちなみにうさぎの子を拾う「アドルフ」は、我が家のうさぎのきなこさんをほうふつとさせる傍若無人ぶりに妙に親しみを感じた! 白黒の結論をつけるような作品でないだけに、簡単に感想文を書く題材にするには向かないが、余韻を残し、ふとした瞬間にイメージが立ち上ってくるよう。