児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

北をめざして 動物たちの大旅行

 明けましておめでとうございます。新春、動物たちの移動もはじまるかも。

北をめざして (福音館の科学シリーズ)

北をめざして (福音館の科学シリーズ)

 

 北極の春に向けて様々な動物が移動する様子をビジュアルに紹介している。美しい絵がまず目に入るが、短い北極の夏の恵みを享受する動物たちのワクワク感がある。本文中の解説は少ないが、巻末で北極の海が豊かな理由や、その海が危機にみまわれているようすをきちんとかいてあるのが良い。

怪じゅうが町へやってきた

 

怪じゅうが町へやってきた (世界の幼年どうわ 12)

怪じゅうが町へやってきた (世界の幼年どうわ 12)

 

 グリフィンが、自分の石像を見に町にやってきました。そして町のぼうさまを気にいっていついてしまいます。怪獣がこわい町の人たちは、とうとうぼうさまを追い出しますが、グリフィンはぼうさまのかわりにこどもたちの先生を務めたり、病人を見舞に行ったりし始めたので、みんなは大パニック。19世紀末に書かれた原作は古風だが、センダックの絵が魅力。

はてしなき追跡

 

はてしなき追跡 (くもんの海外児童文学シリーズ)

はてしなき追跡 (くもんの海外児童文学シリーズ)

 

 ジョンは13歳。ジョンが幼いころに両親は飛行機事故で亡くなり、祖父母と暮らしてきた。田舎の暮らしをすべて教えてくれた祖父は、狩りの手ほどきもしてくれた。だが、その祖父が癌にかかった。医者は手の施しようがないというけれど、ジョンは信じられない。今年の狩りは一人で行かなくてはならない。ジョンは、冬の食料としてのシカ肉を手に入れるために出かけ、シカを追い詰めるがなぜか引き金が引けない。このシカを殺すのではなく、触れることができれば祖父は助かる。そんな思いに駆られ、ひたすら追跡を始める。大切な人の死という事実を受け入れられない絶望感が幻想的な追跡の中に描かれていて印象的。

さまざまな出発

 

さまざまな出発(たびだち) (くもんの海外児童文学シリーズ)

さまざまな出発(たびだち) (くもんの海外児童文学シリーズ)

 

 インディアンの血をひくスーは銀行に勤め、白人のボーイフレンドボブと付き合っている。悩みは、いつも夕飯前に長々とインディアンの戦いや風習を語るおじいちゃんのこと。だが、突然一人の若いインディアンと出会ってから何かが変わり始める。ディビットの夢はアメリカで仕事をすること。メキシコには仕事がない。ヒッチハイクで乗せてくれた人たちは親切で、仕事にもありつくことができた。なんて幸せなんだと思ったも束の間、徐々にそこでは給料から宿泊費や食費が容赦なくひかれ、手元にはほとんどお金が残らないという現実を知らされ愕然とする。ローラは羊を放牧する農場の一人娘。この仕事が大好きだ。とりわけ羊の出産時は、家族全員がろくに寝ないで仕事を続ける。厳しいけれど、充実した時間。だが、今年、父さんはローラは家を手伝わずに学校に行けと言い出した! ピーターは新しいサウンドを見つけ続けている青年。両親は、ロックをしているというだけでドラックや酒に浸っていると誤解しているが、ピーターはどちらもしない。大切な音を見つけ出すためにすべてをささげている。この4人の物語とともに、戦場に行ったさまざまな若者の物語が挟まれる。戦場に行った若者たちは、体に、あるいは心に回復できない傷を負って帰国する。希望と絶望のさまざまな物語が交差する。それぞれの物語は、関連があるわけではなく、最後は核戦争を暗示させるものなのに、全体として不思議な魅力と、希望を感じる。

お船がかえる日 チョプラン漂流記

 

チョプラン漂流記 お船がかえる日

チョプラン漂流記 お船がかえる日

 

 江戸時代に、大シケのため函館から台湾のチョプランまで漂流することになり、たどり着いた地で暮らしたのち8年後にやっと帰国した実話をもとにした物語。市松という8歳の頭のいい男の子を主人公に、大人たちが慣れない暮らしに順応できずに次々に命を落とす中で、船長の文助と市松だけがなんとか生き延びた。台湾の中でもはずれのチョプランに商人がやってきて、文助が刀を売ったことが縁となり、無事に帰国の道が拓ける。当時の台湾の漁村の風俗や、市松がそこで育んだ友情などが素直に描かれている。シリーズ3作の中では、個人的にはこの作品が好き。

長崎ものがたり お船が出る日

 

長崎ものがたり お船が出る日

長崎ものがたり お船が出る日

 

 戦国時代末期。海太郎は、かつて海賊だったというじいちゃんに育てられ、その死後、じいちゃんの遺言に従い、黒く煤けた像をもって長崎に向かう。正直、像? 長崎? というのでキリシタンと思ったら媽祖(航海の守り神の海の女神)の像でした。海太郎はじいちゃんのともだちだたという船大工の下で働きながら航海の夢をみます。そして外国まで交易に出るハウ船長にであう。ハウ船長は壊れかけた唐船を曳いてくるが、それそ見事日本の船大工たちは修理して海太郎も船出していくという物語。祖父を失ったり、他人の家で働いたりという悲壮感がなく、楽しい雰囲気にしているが、『チムとゆうかんなせんちょうさん』を思うと、もうちょい修行の厳しさテイストも混ぜたほうがワクワクするきもした。

淀川ものがたり お船がきた日

 

淀川ものがたり お船がきた日

淀川ものがたり お船がきた日

 

 1711年に30年ぶりに訪れた朝鮮通信使の船が日本に到着。淀川をさかのぼっていく様子を、新しい世界との出会いに興奮する二人の日本の子どもの目をとおして描いた絵本。秀吉の朝鮮出兵という負の歴史の後、鎖国の日本に開いた小さな窓のような朝鮮通信使との交流が明るく描かれている。よみきかせにも使えそう。