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さまざまな出発

 

さまざまな出発(たびだち) (くもんの海外児童文学シリーズ)

さまざまな出発(たびだち) (くもんの海外児童文学シリーズ)

 

 インディアンの血をひくスーは銀行に勤め、白人のボーイフレンドボブと付き合っている。悩みは、いつも夕飯前に長々とインディアンの戦いや風習を語るおじいちゃんのこと。だが、突然一人の若いインディアンと出会ってから何かが変わり始める。ディビットの夢はアメリカで仕事をすること。メキシコには仕事がない。ヒッチハイクで乗せてくれた人たちは親切で、仕事にもありつくことができた。なんて幸せなんだと思ったも束の間、徐々にそこでは給料から宿泊費や食費が容赦なくひかれ、手元にはほとんどお金が残らないという現実を知らされ愕然とする。ローラは羊を放牧する農場の一人娘。この仕事が大好きだ。とりわけ羊の出産時は、家族全員がろくに寝ないで仕事を続ける。厳しいけれど、充実した時間。だが、今年、父さんはローラは家を手伝わずに学校に行けと言い出した! ピーターは新しいサウンドを見つけ続けている青年。両親は、ロックをしているというだけでドラックや酒に浸っていると誤解しているが、ピーターはどちらもしない。大切な音を見つけ出すためにすべてをささげている。この4人の物語とともに、戦場に行ったさまざまな若者の物語が挟まれる。戦場に行った若者たちは、体に、あるいは心に回復できない傷を負って帰国する。希望と絶望のさまざまな物語が交差する。それぞれの物語は、関連があるわけではなく、最後は核戦争を暗示させるものなのに、全体として不思議な魅力と、希望を感じる。