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クジラに救われた村

 

クジラに救われた村

クジラに救われた村

 

 スキは都会に住むイヌイットの少女だ。母子家庭で兄がいるが、スキも兄のレヴィも問題ばかり起こしている。イヌイットたちは仕事もなく、問題を起こしたり自殺する若者が多い。あるとき、レヴィが行方不明となり、スキは突然母の出身地の僻地の曾祖母に預けられる。曾祖母と大叔父は伝統的なイヌイットの暮らしを維持していた。そして先祖に、女性ながら鯨を仕留めて村を救った伝説の女性がいたことを知る。犬ゾりを学び、漁に同行したスキは初めて認められるが、レヴィが親友と自殺未遂を起こしていたことをニュースで知る。親友が大臣の息子だったために報道されたのだ。意識不明の兄に、郵便で声の励ましを送るが、意識不明の兄は、スキが鯨の物語をしたときに反応したと伝えられる。兄に、鯨のことをもっと伝えたいというスキの呼びかけに、無気力だった村人たちが協力してくれ、ガソリンや資金があつまる。大臣の息子はなくなるが、大臣がせめてレヴィを助けようと援助してくれる。奇跡的に鯨の群れを見つけられ、その鳴き声を録音できたが、兄は危篤状態に、だが、鯨の声をきいて意識が戻る。大臣の采配で、村は鯨の研究拠点となり地元に雇用ができ、村人もスキもレヴィも生き生きと暮らせるようになる。 正直、ちょっと都合がよすぎるハッピーエンドで、社会派作品を書いている作者が主張のために設定を作っている雰囲気も否めない。だが、失われたアイデンティティを取戻していく過程は読者にとって励みになるのも確か。