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砂漠の物語

 

 

砂漠の物語

砂漠の物語

 

 砂漠の存在感がリアルな4作品が収録。滅びた王国を探す学者と、孫を奪ったオオカミを求めるオオカミを追う老人の「砂漠のオオカミ」は、オオカミに育てられて狼と化した孫を取り戻せない。「砂漠のまつり」は、雨を求めた神事でもある芸能が、文化として扱われる現代の中での物語。伝統の弾圧を受けた歴史がいたわしい。そして、頑固に自分の手で作物を育てようとする老人の姿も見呂億。「砂漠の弔い」は優秀な砂漠の緑地研究家でありながら、権力闘争ではめられ、砂漠に生きがいを求めた男と、ラマ僧であった人生を奪われながらも、やはりラマ僧であり続ける僧との間の友情と二人が育てた白いオオカミ犬、そして夫の死後にやってきた研究者の妻の物語。「砂漠のキツネ」は砂漠に生きる中で、砂漠の生態系に気付き、キツネを含めた生き物を大切に守ろうとした男と、平気で狩りを楽しもうとした外来者の物語。いずれも、砂漠の魅力、厳しさと、そこに生まれる砂漠に適応した命が魅力的に描かれる。必ずしもハッピーエンドではないのに、砂漠への畏敬の念が伝わり心が動かされる。