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イシ 二つの世界に生きたインディアンの物語

 

 金を求めてやってきた白人たちに追い詰められ、虐殺されたヤヒ族。そのわずかな生き残りがイシ、イシの母、従妹のトゥシ、叔父、祖父母、ティマウィのわずか7人だった。みんなは白人に気付かれないようにひっそりと身をひそめながらもヤヒ族の伝統的な暮らしを守り生きている。だが、ティウマイが白人に手を出して殺され、祖父母に寿命が来る。そして、隠れ家が見つかり、イシとイシの母、トゥシと叔父で二手に分かれて逃げるが、トゥシと叔父は消えてしまった。そして母がなくなった時、イシは孤独の中に耐えきれずに彷徨ううちに白人の居住地に来てしまう。殺されると覚悟していたイシの所に、イシの言葉を話せる穏やかな男がやってきた。その男、マジャパという博物館に勤める彼のおかげで、イシは博物館で暮らし、ヤヒ族の暮らしを伝えて生涯を終えることができる。実在の人物をモデルにした作品で、特別派手な事件があるわけではないが、イシの真摯な生きる姿勢がとても胸を打つ。ヤヒ族は人間を射る矢を持たない。なのに、残酷に彼らを殺戮する白人。祖父母を敬い、ヤヒ族に伝わる物語や儀式を受け継ぐ素直な思い。自然の中で狩りをし、採集をするのは、全て命をつなぐため。全く異なる世界に侵入され、距離を置いて暮らしながらも〈怪物〉(蒸気機関車)に興味を惹かれるイシ。イシの姿から、欲望が暴走する現代の私たちを告発される思いがする。著者は『ゲド戦記』のル・グィンの母親。全く違った価値観を偏見なしに受け止める柔軟性の原点は、ここにあるかもしれませんね。