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飛ぶための百歩(2020課題図書 小学校高学年の部)

 

飛ぶための百歩

飛ぶための百歩

 

 ルーチョは、勝ち気な少年だ。五歳の時に視力を失ってしまったが、感が鋭く、いろいろなことを自分でちゃんとできる。おばのベアトリーチェは、そんな甥を小さい時からかわいがっていて、今は一緒に山歩きを楽しんでいる。ただ一つの心配は、プライドが高いルーチョがなかなか他の人の助けを求めないことだった。今回の山歩きでは、ベアトリーチェのなじみの山小屋「百歩」を訪れた。小屋の主人の孫で遊びに来ていたキアーラは、感性が鋭い分、過敏でなかなか人と親しくなれない少女だが、目が見えないことを感じさせないような明るいルーチョと親しくなっていった。この山ではちょうどワシが子育てをしていた。山岳ガイドティッツアーノの誘いで、ベアトリーチャ、ルーチョ、キアーラはワシの巣を観察できるポイントに行くこととなった。だが、ちょうどその時、貴重なヒナを攫って高く売ろうとする密売屋の二人組が山に入っていた。悠々と飛ぶワシの両親と、守られいるヒナ。山を楽しむ一行、密売屋の悪だくみが三つ巴になって物語が進んでいく。当初目が見えないルーチョが山を歩けるのか? と不安に思うティッツアーノや、目が見えない人間にはどう接すればいいのかと迷うキアーラなど、私たちと等身大の登場人物たちの姿をみることで、私たち自身の差別的な偏見を自覚させられる。同時に、ルーチョ自身が素直に必要な時は他人の援助を受け入れられるほど大人になっていくようすが魅力的。密売屋の発見や、ヒナを巣に戻す奮闘の中のルーチョの活躍が、ちゃんと伏線に沿っていて思わず「やったね!」と彼に微笑みかけたくなった。