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今、空に翼広げて

 

今、空に翼広げて

今、空に翼広げて

  • 作者:山本 悦子
  • 発売日: 2019/10/18
  • メディア: 単行本
 

集団登校の中で、1年生の翼はいつも落ち着かない。翼の後ろを歩く原田真紀は、いつも翼を注意してばかりだ。台風の日、家に入れなかった翼を真紀はしぶしぶ家に入れてやったが、なぜか母親はイマイチ反応が悪かった。しかも翼は冷蔵庫の中のパスタを盗んだ! 母親は、翼の母は中学生で子どもを産んだらしいと言って警戒するように言ってきた。でも、それでいいのか? ちなみに最初、翼が早生まれで言葉もちょっとろれつが回らなくかわいいので女の子イメージで読んでいたら、しばらくしてから男の子だったと気づいた。悪気はなくても何でも調子に乗って言いすぎてトラブルを起こしてしまう4年生の岡崎圭太。6年生で通学班長、両親とも教師で優等生だけど、自分でもちょっとそんな自分が不安な更科里奈。両親はブラジル人だけど生れも育ちも日本。運動神経バツグンで、みんなの人気者を自負するパウロ。2年生のティアラもいれた通学班のメンバーの中で、翼がきっかけで起こった出来事から、みんながそれぞれの自分を見つめなおしていく物語になっている。翼と一緒に暮らしているのは、母と母の祖母。その大おばあちゃんが認知症になる。母は、妊娠した自分を祖母の家に追い出した家族に「死んじゃえ」と言った直後に家族が3.11の震災で死んでしまったことで激しい罪悪感を抱えている。当初翼の家を「よそさま」と呼んでいたが、いざというときにきちんと対応してくれた真紀の母親の変化もおもしろい。この中でやはり注目は圭太かも。考えない発言で周りをあおり、そのことに無自覚。最後近くになって、やっとそんな自分の言葉が、みんなを傷つけていたと気づきあおくなる。すぐにはなおせなくても、自覚したことで変わってね! と思うが、こうした圭太みたいなとこってある気がする。子どもたちの自然体の群像が、とてもいい感じ。こんな登校班だったら安心かも。