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きみの存在を意識する

 

きみの存在を意識する (teens’best selection)

きみの存在を意識する (teens’best selection)

 

中学校2年生を主人公にした連作短編。「おぼろ月、名残月」のひすいは、素直な女の子だ。養子になった同じ年の弟拓真のことも、弟として大事に思っている。だが読むことが苦手で、懸命にやっても速くよめない。新任の角野先生が読書を奨励するので、本を読みたいのにどうしても進まない。「自分の正体スペクトル」の理幹は、長身で短髪。服や持ち物もシンプルで男の子とよく間違えられる女の子だ。かといって別に男の子になりたいわけでもない。角野先生が読んだ書名を貼りだそうというのを読書はプライバシーだから嫌だと堂々と反抗するが、家では神経質な父親に気を使う母と一緒に、父のペースを乱さないよう暮らしている。「血のインク」の心桜(こはる)は、見た目がかわいいが、どうしても文字がうまく書けない。そのためにかわいいいけれどバカな女の子のレッテルを貼られている。だが、自分が文字をうまく文字を書けないのは障害があるせいだと気付く。知的な問題はなくても文字が書けないために進学できないのはいやだ。パソコンのタイピングを習ったおかげで、パソコンを使えば文字がきちんと書けるようになるが、学校はテストでのパソコン使用を認めようとせず、心桜は、激しく抵抗する。「出さない手紙」はひすいの義弟拓真が主人公。引き取ってくれた両親にも、義理の姉ひすいにも感謝しているが、高校から寄宿学校に進み自立したいと願っている。「ゴルディロックスの行方」の賀川小晴もまじめな優等生タイプだ。小学校時代からの友人留美名は、臭いが耐えきれないと言いだして突然不登校になり、今はやっと無人の教室に登校している。彼女は毎晩スマホで話しかけてくるが、一方的に不満をぶつけてくるので正直疲れてしまっている。

“ふつう”にできるのが当たり前、という価値観の学校の中で、ささいだが重要な違いのために居場所を奪われ苦しむ子どもたち。自分のハンディキャップを自覚して、それへの配慮を求める心桜。それに対し、自分はふつうだからそんなことは不要だと考えるひすい。心桜が学校に対し、弁護士まで立てて主張してくれたおかげで、配慮が認められ救われていく留美名。読めない、書けない、臭いに過敏などの問題を「わがまま」と捕らえ、大多数が支障がないのだからその子がおかしいと平然と切り捨ててきた学校の現実は恐ろしい(最近は変わりつつあるのがありがたいが)。困っている人間が、困っていることを自然に伝えられるだけでもどんなに楽になるだろう。そうでなくても自分を持て余す時期に、違和感に苦しみながら成長していく一人一人を応援したくなる。