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新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

オール・アメリカン・ボーイズ

 

黒人のラシャドの父は元警察官。何かと口うるさく、軍隊から警官に進んでまっとうな暮らしをしろと言い続けている。ある日、コンビニでバックから携帯を取り出そうとかがんだラシャドに白人のおばさんがぶつかって転んだ。彼女の手からビンが落ちて割れた。次の瞬間、ラシャドは白人警官につかみだされ、店の前で何度も地面に叩きつけられていた。白人女性に危害を与え、万引きをしようとしたと言われて! 鼻が折れ、肋骨にもひびが入りラシャドは病院に行く。暴行の現場を偶然目撃していたのはラシャドの同級生で白人のクインだった。暴行を加えた警官ポール。彼は近所の頼れる兄貴のような存在で、父がいないクインをなにかと面倒をみてくれた存在だった。だが、明らかにあれはやりすぎだ。その日から学校は落ち着かない。入院したラシャドに加えられた暴力に怒るものもいるが、ポールは暴行と万引きをした人間を捕まえた正当な行為をしただけだという者もいる。ポールの弟はクインに兄の正当性を訴えるが、直に目撃したクインは素直に同意できない。だが、ポールが長年面倒を見てくれたのも事実なのだ。ラシャドのパートを黒人借家ジェイソンが、クインのパートを白人作家ブレンタンが書いた共著。最初は理想に燃えて警官になったのに、さまざまな危険にさらされて過激になっていく警官側の思い、だが、黒人が白人よりはるかに多く警官に射殺されるという数字の事実。ラシャドもクインもどちらかといえば押しが弱い普通の男の子。だからこそ、私たちはどうしたらよいのか?と問われる気がする。原書は2015発行。「息ができない」と言いながら警官に殺されてしまった黒人のジョージ・フロイド氏の事件はこの後。アメリカの闇と思いつつ、日本でも多くの問題があることをあらためて考えなければならないことを思う。