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影との戦い ゲド戦記Ⅰ

 

久しぶりに読み返したが、あらためて、なんてしっかりした世界が出来上がっているのかと思った。ゴント島で生れ、母を早々になくしたゲドは、彼の魔法の素質に気づいたまじない女の叔母から魔法の手ほどきを受ける。島が軍隊に襲われた時、霧の魔法で敵を攪乱して追い払ったことで、その才能が伝わり、魔法使いオジオンに引き取られる。穏やかで、魔法をめったに使わない彼から離れ、ローク島の魔法学院に行ったゲドは、そこでカラスノエンドウという生涯の親友と出会うが、同時に身分もよく優秀なヒスイとも出会った。彼に反発するあまり、死者を呼び出す禁断の魔法に手を出し、引き裂かれた世界の裂け目を修復するため、学院の長で大賢人ネマールは命を落とす。ゲドも大きな傷を負い、なんとか学院を終えるが、自分が呼び出してしまった影につきまとわれる。大きな過ちに、いかに立ち向かえば良いのか? その後のファンタジー界でしばしば扱われるモチーフの原点になる物語だが、今回読んでみると、あらためて、島々をめぐる冒険や竜との対決など、細かいエピソードがきっちり積み上げられていくようすがとても楽しかった。異世界がこんなにありありと立ち上がってくる物語は、やはり稀有。