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伝説の編集者ノードストロムの手紙―アメリカ児童書の舞台裏

 

1940年~1973年、アメリカのハーパー社の児童書部門を統括したアーシュラ・ノードストロムが、作家や画家、読者などに宛てた手紙263通を収める。

本書を開いてすぐ目に飛びこんでくる書影の数々に、あれもこれもノードストロムの手で!という驚き。なかでも、ローラの「大きな森」シリーズをガース・ウィリアムズの挿絵で新装出版したことは、これ以外考えられないくらいの英断です。

ノードストロムには、子どもの本の編集者としての気概、揺るぎない信念があります。一般書より低く見られる分野、かつ女性であること、子どもへ”悪影響”という非難・・・などなどに対しノードストロムは、言葉によって”闘”います。「小さな男の子の裸」(『まよなかのだいどころ』センダック作)や、「少年たちの同性愛」、「少女が初めて生理になるところ」を描いた作品を世に送り出し、子どもや若い人向けの本のタブーを打ち破ったこともそう。一方で、手紙はいつもウィットに富み、時に見せる弱気な心はチャーミングです。

そして、全体を通してあふれる、作家たちへの愛。ことにセンダック愛!!!若い作家が「あなたの居場所はここですよ!」と認めてもらえる無敵の勇気は、どんなに心強かったことでしょう。よくない原稿に「Not Good Enough For You」”あなた本来のすばらしい水準に達していない”と記すのは、才能を認めているからこそでした。

子どもには創造性や本物を見抜く力がある、なのに「自分たちは尊重されている、と子どもが感じることができる本」は少ない、と指摘。また編者前書きによると、ニューヨーク公立図書館児童室長、かのアン・キャロル・ムーアが「司書でもなく、教師でもなく、親でもなく、大卒でもない人が、子どもの本を出版する資格があるのか」と聞いたときに、「私はもと子どもでしたからね。そのことに関しては何一つ忘れてはいませんわ」と答えたとか!

「子どものため」になることは、子ども自身が知っているのです。 (は)