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黄色い夏の日

 

中学1年の景介は、美術部の課題に描きたい家があった。ひと昔前の空気を漂わす洋風の家。1人で堂々とスケッチする勇気がなくたたずんでいると、中から現れたのはおしゃれなおばあさん。景介の祖母が入院したときに隣のベッドにいた人だった。

思いがけず顔見知りだったことから、中に招かれお茶を飲むうちに、うとうと眠ってしまったおばあさん。すると、奥の離れから誰かの呼ぶ声がして、景介はゆりあという少女に出会う。屈託なく可愛らしいゆりあに惹かれ、度々その家を訪れるようになるが、ゆりあのことを誰にも話せずにいると、今度は、ゆりあのことを裏の垣根からのぞくやや子に出会う。やや子の瞳は、どこかそのおばあさんに似ているようで。

一方、景介の幼なじみの晶子は、景介が何かに憑かれたようにやつれ、頬がこけていく様子を心配していた。ある日、景介のあとをつけ、晶子は晶子でそのおばあさんと知り合いになり、やがて晶子が知ったその建物の秘密とは。

黄色い小花と緑に囲まれた建物、おばあさんのいれる菩提樹花茶、鍵のついた日記帳、鴉が語る赤い円屋根の家の秘密・・・と道具立てが巧み。あるひとときが終わりを告げた場面で、見開き一面に描かれるキンポウゲの黄色い花が、効果的ではっとします。 (は)