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木かげの家の小人たち

 

不安な世情の中で、イギリスに帰国するミス・マクラクランから小人の夫婦を託された小学生の男の子達夫。小人の食べ物として、毎日必ずコップ1杯のミルクを用意することを約束します。達夫は大人になり、結婚して子どもが生まれます。そしてミルクを用意するのは達夫の子どもたちに引き継がれました。そして小人たちには女の子のアイリスと男の子のロビンが生まれます。小人たちのことは、誰にも知られてはいけません。日本は戦争へと向い、達夫は自由主義者として連れていかれ、一家の苦難が始まります。長男の哲は、父の考えを理解していますが、次男の信は愛国少年となり、非国民の父に反発。末っ子のゆりは、小人たちを守ろうとして、疎開先に連れていきますが、誰にも秘密のままで小人たちにコップ1杯のミルクを用意するのは大変なことでした。そして、慣れない生活に、ついに倒れたゆりは、いけないとわかっていながらも弱ったからだが受け付けるのはミルクだけ、小人のための粉ミルクはついに尽きてしまいます。ミルクがもらえなくなったら、人間の所を去らなければならないと言うのが小人たちの決まりです。戦場や空襲が直接書かれていないのに、大切な自由と理想を失う痛みが、切々と伝わってくる稀有な物語。私たちは、いつまでも小人の友でいられますように。