「手品師」は、修行によっていらないものをもいろいろな形の煙にする力を手に入れた手品師の物語。「天下一の馬」は、悪魔の子から、けがをしたので回復するまで馬の腹の中で過ごさせてくれと頼まれ、あわれに思って、承知してやると、そのかわり馬の力を十倍にしてくれる物語。馬飼いの甚兵衛が、馬を大切にしてやるやさしさが報われたようでよい。
「手品師」は、修行によっていらないものをもいろいろな形の煙にする力を手に入れた手品師の物語。「天下一の馬」は、悪魔の子から、けがをしたので回復するまで馬の腹の中で過ごさせてくれと頼まれ、あわれに思って、承知してやると、そのかわり馬の力を十倍にしてくれる物語。馬飼いの甚兵衛が、馬を大切にしてやるやさしさが報われたようでよい。
中学3年を迎える5人の男女の姿を、それぞれがアンケートの回答を書きながら自分を振り返る形で描いている。女子なのに背が高いことにコンプレクスを感じている朝子、バレーボールに夢中でキャプテンまで務めたものの、こちらは逆に小柄なせいでアタッカーになれず、しかも実は朝子が気になっているのに自分のほうがはるかに背が低いのを気にしている征治。太めの元気キャラだったはずだけど、好きになった男の子と並んだら似合わないことに気づき、ダイエットがうまくいかずに不登校になってしまった雅恵、学校では無難に過ごしているけど、空気を読むことに疲れてクラスメイトがいない塾に行くことを決めた由里、大好きな彼女のことで頭がいっぱいなのに、実は彼女はそうでもないことにうすうす気づいている美巳。アンケートとは、クラスのもの、雑誌、塾など様々。それぞれが、自分らしく生きたい、未来に向かって何かをしたいという思いが素直に出ていて、気持ちよく読める。
舞台はブラジルのリオデジャネイロ。主人公のゼゼーやっと5歳だが、いたずら悪魔。次々にいたずらを思いついて実行してしまうので、近所でも鼻つまみ者だ。早熟で頭の回転が良く、想像力豊か、ひっこしてきた家の小さなオレンジの木を友達にしていつもおしゃべりをしている。だが、父親は失業してすさんでおり、母親は仕事で疲れ切っている。ゼゼーのちょっとしたいたずらに激怒した父や兄に、暴力を振るわれることもしばしばだ。学校の先生は、ゼゼーの頭のよさと、心のそこにある優しさに気づき、大切にしてくれる。ゼゼーもそんな先生の前では、悪いことができない。町一番の立派な車にいたずらしようとしたことで、車の持ち主の紳士と知り合いになり、最初はにらまれているが、ゼゼーのけがに彼が気づいたことで、二人の交流が始まる。クリスマスにプレゼントさえもらえない貧困の中生きなければならないゼゼーの現実にショックを受け、こっそり遊びに連れて行ってくれ、食べさせてくれ、大切に甘えさせてくれた。だが、事故で彼は急死。助けを失って絶望して瀕死の病気となるゼゼーだが、姉の献身的な看護で、なんとか持ち直す。やっと新しい仕事が見つかった父とともに、その地を去ることになる。子どもの守られたい、甘えたいという切ない想い。夢がかなえられたかと思えばつぶされた悲しさが深い余韻となっている。
真砂人は長野県上田に住む5年生。家のすぐ裏山の神社には大神が祭られている。最近、いろいろな獣が畑を荒らして困っているが、これは全て狼がいなくなったせいだとじいちゃんはいう。そんな折、上野の科学博物館に行き、ニホンオオカミは絶滅したと知るが、ひょっとするとまだいるかもという思いも捨てきれない。神社の近くで倒木の根元から骨を見つけ、オオカミの骨に似ているようでドキドキスルが、だれも相手にしてくれない。真砂人は、一人で新幹線に乗り、科学博物館まで行って骨を見比べて確かめようするが、途中でゆうじという一人で新幹線に乗ってきた幼稚園児につきまとわれ、ゆうじと行動を共にすることになる。おまけに、骨を比べていたら、警備員から盗んだ容疑をかけられ大ピンチ!はたしてオオカミは本当にいるのか? こっそり一人で上野に行って大丈夫か? ゆうじをどうする? となかなかテンポよく楽しめる。トラブルを乗り越え、新しい夢を手に入れた真砂人くん。よかったね!
ソ連の侵攻の前に、東プロイセンから民間人や傷病兵を船でバルト海経由で脱出させるハンニバル作戦が図られる。避難民の一人ヨアーナは看護師の経験があり絶えずけが人を助けようとしている、エミリアはポーランドのおとなしい少女で、彼女を襲ってきたロシア人から助けてくれたフローリアンをひたすら尊敬して慕っている。フローリアンは、できれば一人で行動しようと画策しているがエミリアを振り切れずヨアーナの一行に合流することになる。そして脱出船に乗る兵士アルフレッドは、自分の重要さを自負しているが、その言動はなにかおかしい。4人とも秘密を抱えている。その秘密が徐々にあきらかになるという構成が逃亡の緊迫感とからまり、一気に読み進めずにはいられない。それにしても追跡してくるソ連兵が手あたり次第レイプし、奪っていくさまは恐ろしい。個々の兵士は素朴な農民だったりしたはずなのに、それを人間以外のものにしてしまう戦争の恐ろしさを感じる。そして、船にたどり着いたものの、1万人余を乗せた船は、魚雷を受け沈没。救命艇は足りず、氷の海は、その9割を飲み込んでいくという忘れられた実際にあった歴史的な事件をよみがえらせる。ちなみにヨアーナは、同著者の「灰色の地平線の彼方へ」
の主人公リサのいとこということが最後のころにわかり、この二つの物語がつながる。二人そろって、過酷な生を生きることになった戦争と戦後を思わずにはいられない。
移民の少年が、努力の末に富を得て、自分が篤志家の個人図書館に助けられた恩を忘れずに図書館建設を行った物語。その努力は尊敬に値するだろうが、巻末の解説に、自身の鋼鉄工場労働者と対立して労働争議が起こったことが書かれているが、こうした負の面も含めた当時のアメリカの姿も踏まえた伝記が、本来ならのぞましい。