児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

幸せな王子 オスカー・ワイルドショートセレクション

 

「幸せな王子」「わがままな巨人」は、比較的知られた物語だと思うが、きちんと読んでみると、あらためて描写も美しく。印象的な物語。「ナイチンゲールとバラの花」もナイチンゲールの自己犠牲の物語ではあるが、皮肉めいた雰囲気が少し漂う。そして「カンタヴィル家の幽霊」はイギリスの伝統ある幽霊が、アメリカ人に買い取られてすっかり調子が狂うドタバタに始まりながらも、一家の優しい長女が幽霊が安らかに眠るために手を貸すハッピーエンドにつなげている。そして「アーサー・サヴィル卿の犯罪—義務とは」も殺人犯になると予言されたせいで、懸命に早々に殺人を終了して幸せな結婚に向かおうとこころみるが、手間取ってという皮肉な物語。頭の回転が素早くて、だけれども抒情性もあるワイルドの魅力が楽しめる。

飛べないハトを見つけた日から

 

12歳のダリルが、友人のギャリーと公園で遊んでいるときに見つけたのはケガをした飛べないハト。思わず家に連れ帰り、飼いたいというが、両親には猛反対される。だが、レース鳩だとわかり持ち主を調べようと、近所でレース鳩を飼育しているダッキンズさんという老人をたずねると、持ち主に連絡してくれるが、飛べないなら安楽死と言われる。どうしても死なせたくない。死んだと言って飼わせてほしいと再交渉の末、ダッキンズさんに教えてもらって、なんとか飼育を開始した。だが、なんと本来の持ち主の息子スピゴットさんの息子は同じ学校の上級生。鳩のことを気づかれ、父親にバラすとおどされて、パシリにされ、お金を巻き上げられて、ついに親の財布にまで手をだしてしまった。チェロキーとなずけた鳩は順調に回復。ダリルは、レースに出して賞金を稼いでなんとかお金を工面しようと思いつくのだが、果たして? という物語。夢中になるあまり、誰にも助けを求めずに、パシリになるダリルの姿はちょっと痛ましい。そして常に一緒につるんでいるおふざけ気味のギャリー。入り浸って、しょっちゅうご飯を食べさせてもらっているけど、この子の家大丈夫? と大人目線でいろいろ心配してしまう。結果的には、視野の狭いダリルが気づかなかった常識のせいで、無事にいろいろな物事が解決する。そういう安心感はうれしいかと思う。

アヤカシさん

 

小学校3年のケイ君には10歳違いで、大学生のメイおばさんがいる。小さいころからベビーシッターに来てくれ、今でもお母さんが遅い日は家庭教師で来てくれる。そのメイとケイ君には秘密があった。他の人には見えないモノ、アヤカシが見えてしまうのだ。メイは、それを他人に言っても信じてもらえずに苦労した経験から、アヤカシが見えてしまっても無視して、誰にも言ってはいけないとアドバイスしてくれる。アヤカシは、見つけてくれる人がいると喜んでついてくるから、無視するのが一番だというのだ。だが、ケイは、初めて見たしろひげのアヤカシさんに、実は古い鍵の精であることを明かされ、河原でその鍵を拾う。折々に出会うさまざまなアヤカシたちは、恐ろしいものではなく、みんな忘れられた存在を思い出してほしい様々な古い物の精。読んでいると、自分にもそんなアヤカシが見えてくるような気がするのが魅力。

4ミリ同盟

 

子どもの頃は感心がないけど、成長してくるとなぜかフラココノ島に行ってフラココノ実を食べたくなる。なのに、ポイット氏は、なぜか島に渡ろうとしてもトラブルが起きて、どうしても島にいくことができません。そんなある日、しゃきんとしたエビータさんからフラココノ実を食べていないことを見破られてしまいます。なんと、食べていない人は、4ミリ位宙に浮いてしまうのだというのです。ポイット氏は確かに自分も浮いていることに気が付きビックリ。仲間を探して力を合わせればフラココノ島に行けるはず、と言われ仲間を探し始めます。そして画家のバンボーロ氏とおばあさんのコロリータさんが加わり、4人はイカダを作ってフラココノ島に向かうことにしました。
高楼さんらしい奇抜なアイディアが楽しいが、フラココノ実を食べたいのか、食べたくないのかがなんとなく微妙。そして結末も、正直、ちょっとずるい気がしました。小学生だと納得がいかず、高校生くらいなら、これもいいな、と思うようなてんかいという気がします。

5番レーン (2023年課題図書小学校高学年)

 

勝つことを目指して努力してきたナル。だけどどうしてもキム・チョヒに勝てずに悔しくてたまらない。女子小学生の部のトップクラスとしてずっと練習を続けてきた。コーチは勝つこと以外にも大切なことがあるというけれど、やっぱり勝たなければ悔しくてたまらない。どうしても水泳をやりたくて転校してきて頭角を表した男の子テヤンの存在や体育中学に入ったのに競泳から飛び込みに転向してしまった姉さんのボデゥルに心がざわめく。そしてキムが幸運のお守りだと言っていた水着が更衣室に残されていたのを見た時、ふと手を伸ばし、思わず持ち出してしまったナル! どうしたらいいの? でも、後悔してもどうにもならない。中学生になる直前のざわめく思い、ナルの必死な思いにドキドキさせられる。水泳部の仲間たちの友情やコーチの姿勢もとても魅力的。部活を頑張っている子には特にオススメ。

落っこちた!

 

鉄道に勤めていて、すばらしい鉄道模型を作っているパパ。ガーデニングに熱中して完璧な庭を作ったママ、ファッションに夢中で美容はバッチリの姉さんファビエンヌ。そんな中でヘンリックは特に趣味もない男の子だ。ところがある日、おばあちゃんが老人ホームに放火して飛び出してやってきた。こんなおばあちゃんがいたなんて、全然知らなかった。なんともマイ・ペースなおばあちゃんは、一家の暮らしをひっかきまわし、さらに自分のお父さんが戦争前に金の延べ棒を3本、庭のどこかに埋めたけど、復員後はショックで場所がわからなくなったという話をしたから大変。気がついたら、家族はみんな、趣味なんか放り出して庭の宝探しに夢中。掘って掘って掘りまくるようになっていた。ちょっと、ナンセンスなドタバタだけど、ちゃんと落ち着くところに落ち着いて、しかも宝もちゃんと登場。楽しく読める作品。

落語ねこ

 

小学校5年の七海は、元気だが気配りいっぱいができるタイプではない、そのせいでなかよしのこずえが実は迷惑しているという匿名の手紙を読み、こずえを問い詰めたようになったことがきっかけで絶好状態になってしまった。クラスメイトからも七海から絶好をしたように見られ、反感をかい、シカトされる。そんな時、入院したおじいちゃんからオデブの猫をあずかるが、なんとこの猫には、なくなった落語家如月亭大福の魂が取りついていて、おかげでおしゃべりができる。この猫のクマハチに励まされ、なんとか仲直りをしようと試みながら、大福が幽霊になった原因をさぐるべく大活躍する。元落語家という猫のとぼけたキャラなど読みやすいので、気軽に読める作品。