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子どもに定番絵本の読み聞かせをー選書眼を育てる60冊の絵本リストー

『子どもに定番絵本の読み聞かせをー選書眼を育てる60冊の絵本リストー』

     尾野三千代/著 児童図書館研究会/発行 2021年8月15日

 

定番絵本とは、「長く読み継がれてきた絵本」のこと。そして、「子どもにとって成長の糧となり、生涯忘れえぬ喜びをもたらす絵本」である。

著者は、図書館司書やおはなし会ボランティア、子育て経験を通して、子どもに学び、そのような定番絵本の力を確信し、子どもに本を手渡す立場のおとなたちに、広く伝えたいと考えた。

子どもの頃の読み方を忘れてしまったおとなが、改めて選書眼を鍛えることは、「劣等品に対する防御の壁」だと断言。『ぐりとぐら』について、大学生と、おとなの読書ボランティアそれぞれにとったアンケートの記述は、読み方の違いをはっきりと示します。また、おはなし会の運営にあたって、図書館とボランティアが考えを合わせる過程に、定番絵本を根気よく使い続け、子どもの姿が証明してくれる場面は、感慨深いものがあります。

さらに、定番絵本を生み出した石井桃子瀬田貞二、松居直、渡辺茂男らの考えや行ってきたことについても、じっくりページをさいてまとめているのが、本書の特徴。

巻末のリストには、対象年齢・人数、所要時間の目安、あらすじに加えて、本の中に出てくる言葉で子どもの印象に残るものを多数ピックアップ。索引は、それらの言葉からも引けるようになっています。 (は)

子どもの本で平和をつくる~イェラ・レップマンの目ざしたこと

 

戦争で荒れ果てた町を、弟の手をひいて歩く少女アンネリーゼ。ある建物の入口に行列を見つけて入ってゆくと、そこにはさまざまな国の子どもの本が、数えきれないほど並んでいました。アンネリーゼは、死んでしまったパパと通った図書館を思い出して悲しくなります。そのとき、1人の女の人の声が聞こえてきました。その女の人は、子どもたちを集めて本を読んでくれました。花が好きで戦うのは嫌いな牛フェルディナンドや、力持ちの女の子ピッピのお話など。その夜アンネリーゼは、弟にせがまれてお話を語って聞かせます。そしてアンネリーゼも、久しぶりにいい夢を見て眠れる気がしたのでした。
伝記絵本っぽいタイトルなのに、主人公はイェラ・レップマンではないことに混乱します。巻末の解説や、本書の売り上げの一部がIBBY国際児童図書評議会。レップマンが設立。)の基金に寄付されるということからも、子ども向きではありません。大人が読んで知るきっかけにし、レップマンについては『子どもの本は世界の架け橋』(こぐま社)や『子どもの本がつなぐ希望の世界』(彩流社)の方を、ぜひ読んでもらいたいです。 (は)

和ろうそくは、つなぐ

 

和ろうそくは「どうやって作られ、なにからできているのだろう。」という疑問から、「モノづくり」をたどる著者の旅がはじまる。

愛知県の和ろうそく職人を皮切りに、ろうの原料であるハゼの実を収穫する長崎県へ。ろうそくの芯となる和紙は岡山県、和紙に巻きつける灯芯は奈良県、そして芯の仕上げに薄くかける真綿は滋賀県へとめぐる。

でも、そのつながりは、この一筋だけではない。ろうのカス(ハゼの実をしぼった後のろうカス)を利用する藍染め職人からつながる、もう1つの道筋も、著者はたどる。

それぞれの工程での小さな循環と、全体のつながりでの大きな循環。各々の職人が言う「捨てるものはひとつもない」という言葉を、しかと実感させてくれる写真絵本です。 (は)

ブラックホールってなんだろう?

 

本当に、ブラックホールってなんなのだろう?なんでも吸いこんでしまう、と聞きますが・・・。

「穴」と言うのに、天体。直径は50kmと地球よりずっと小さいのに、重さは地球の約300万倍もあって、重力の強さは半端じゃない。その重力が光さえも引っぱりこんでしまうので、私たちの目には真っ黒に見える。

研究者たちは、見えないものをどうやって解明しているのでしょう。ブラックホールが発する超高温のガスをX線望遠鏡でとらえたり、恒星が引っぱりこまれていく動きを観測して発見したり。そんなブラックホールが、宇宙にはたくさんあって、天の川銀河だけでも100万個以上とか!

合体してさらに強力になるブラックホールがあるらしい?なんでも吸いこむだけじゃなくガスを吐き出してもいて、そこから星が誕生しているかもしれない?・・・と、まだまだ謎多き天体です。わかったようなわからないような。でも、読む前よりイメージできることが増えるのは、確かです。 (は)

世界のたね 真理を探究する科学の物語 下

 

下巻は、ダーウィンマリー・キュリーアインシュタインといった人たちの分野を中心に。宇宙という膨張し続ける巨大な空間・時間の世界と、ウイルスや遺伝子という極ごく微小な世界という、両極端に広がる人間の好奇心が物語られます。真理探究のバトンが千年、万年と時代を超えて「つながった!」という感動は、伝記では味わえない驚きでした。

本編の最終章ともいえる第30章「生命の神秘」では、放射能の発見・利用や、遺伝子工学の発展に関する科学者の社会的責任について、規制をつくれるのは科学者自身なのだとし、その一員になるかもしれない若い読者へメッセージを送っています。

真理を探求する人間の果てない好奇心は素晴らしいけれど、1つの発見が与える、社会的な、未来への影響を考えて行動できるのも人間。その責任の重さが、つき刺さります。 (は)

世界のたね 真理を探求する科学の物語 上

 

自然科学の歴史を、人類誕生から現代につながる大きな「物語」としてつづる。
上巻は、人類誕生から産業革命まで。アリストテレスガリレオニュートンなどが登場します。

第1章「好奇心」でいきなり、はっとさせられました。自然界で唯一たしかな規則性をもつ星空が神々の存在と結びつき、科学の発展の一方で信仰が意味を持ちつづけていること。そのため、違う考えを持ってもいいことに何百万年も「気づかなかった」という指摘は、分断をつづけている世の中の根深さを考えました。

おもしろかったのは、古代ギリシャ人の研究熱心さと、インド人の数学分野に秀でた能力、それらの知識を収集し利用することに長けていたアラビア人という関係性。真理探求の歴史を人類全体とおして見ると、民族・地域をまたいでバトンが渡されてきたということは、大きな希望です。

難しい数式は一切なしで、言葉で説明してくれるおかげで、数学、物理、化学・・・が苦手な私も、挫折せずにおもしろく読み通すことができました。 (は)

ピーレットのやさいづくり

 

小さな女の子ピーレットは、自分だけのやさい畑を作ることに。そばで犬のピフが見守ります。畑をたがやし、種をうえる線をひもでまっすぐに引いて、種をまく・・・と、1つひとつていねいに作業していきます。はびこる雑草や、畑を荒らす鳥たち、大雨にもあったけれど、立派に収穫できた野菜や花。ピーレットは市場に並べて大満足なのでした。
白い背景に、ピーレットとピフ、最小限の道具だてのみを描く。小さな空間を表すように小ぶりの絵本だが、幼い子はたっぷり大きなドラマを楽しむことでしょう。
画家のイングリッド・ヴァン・ニイマンは、「長くつ下のピッピ」絵本の挿し絵で有名です。 (は)