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私は「蟻の兵隊」だった

 

私は「蟻の兵隊」だった―中国に残された日本兵 (岩波ジュニア新書 (537))

私は「蟻の兵隊」だった―中国に残された日本兵 (岩波ジュニア新書 (537))

 

 敗戦後の中国大陸で、軍の命令により、数千人の日本人が軍隊のままで残留し、国共内戦を戦った。その経験者の一人である奥村和一氏にインタビュー形式でその経験を語ってもらった本。真実を明らかにし、国にもその責任を認めさせようとしたその努力は「蟻の兵隊」としてドキュメンタリー映画にもなった。

 

終わったはずの戦争が実は終わっていなかった、という視点の物語は、横井・小野田事件を見るまでもなく、北方領土の戦争や、インドネシア独立戦争に加わった、とか、虚実とりまぜ色々ある。ある点ではこれもその一つだが、この本の主題は、そうした歴史上の事実よりも、それに向き合って戦後を生きてきた奥村さんという個人にある。そういう意味で、この本は210ではなく、916に置かれる本なのである。

加害者としての罪責感、戦友の慰霊のために現地を訪れることができなかったという話、にもかかわらず、60年後に訪れて、やはり日本軍兵士である自分が消えずに残っていたという話、やはり事実は小説よりも奇なり。幕がおりてめでたし、めでたし。にならないところにこそ、真実があるという物語なのかも。

八月一五日という「唐突な幕切れ」がどうも信じられない。こういう話はもっと聞いておかなければ。

 

とはいえ、対象はどう考えても高校生以上であろう。ジュニア新書を児童室でどう扱うか、それはそれで難しい問題だ。シニア新書とか言われてる位だからなあ。