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靴屋のタスケさん

 

靴屋のタスケさん

靴屋のタスケさん

 

1942年初夏、小学1年生になったばかりのわたしは、新しく開店した靴屋のタスケさんの仕事ぶりに興味津々。店のガラス戸越しにのぞいているとタスケさんが招き入れ、ボロボロの靴を修理する様子を見せてくれる。今は、材料の皮が手に入りにくいご時世。でも、修行時代はお金持ちの街にいて、あるお嬢様の初めてのハイヒールを上等の赤い皮で作って喜ばれたとのこと。わたしは父親にねだって、タスケさんに赤い靴を注文する。神戸まで行って材料の皮を手に入れたタスケさんは、丁寧にていねいに靴を仕上げる。その靴をはいて七五三のお参りをしたわたし。しかし翌春、とうとうタスケさんにも兵隊の招集があり、靴屋は閉店。翌々春の空襲でお店も赤い靴も焼けてしまった。
時が過ぎてわたしは15歳になった。タスケさんのことも赤い靴のことも忘れていた。ある秋の夕暮れのこと。かつて靴屋があったところを通りかかると、タスケさんの働く姿が目に映り胸がキュッとなる。振り向かずにその場を立ち去ろうとするわたしを、赤い靴をはいた当時のわたしとタスケさんが踊りながら追い抜いて行くのが見えたようだった。
戦争が奪う何気ない日々の幸せと、成長とともに人が失ってしまうものを、短く静かに綴る。振り仮名があり低学年から読めるが、作品を味わえるのは4年生位からか。