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新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

夢見る人

 

夢見る人

夢見る人

 

 チリの世界的な詩人で1971年にノーベル文学賞を受賞したパブロ・ネルーダをモデルとしてその子ども時代を描いた作品。身の回りのさまざまなことに気を奪われて、学校へまっすぐたどりつくことすらおぼつかないような感性をもつネフタリ。見つけた塀の穴から壊れた羊のオモチャを差し出され、お返しに大切にしていたマツボックリをあげるが、その相手を探しに塀の向こうに行くと誰もいなかったエピソードは、特に鮮烈。常に、もう一つの世界とつながっているように見えるこの男の子は、さぞや大変な子だったと思う。貧乏から這い上がり、息子たちに厳格に育てて高い地位や裕福な暮らしをさせようという思いで家族を支配している父。やさしいママードレは、義理の母だが、その父からできるだけ守ってくれている。その弟で新聞記者をしているオルランドおじさんは、先住民を擁護する運動家だ。兄を無理やり音楽の道からひきはがしたり、体を鍛えるために無理やりネフタリと妹を海の中に追い込む父親は暴君のように見えるが、同時に断固として父の思い通りにならずに抗うネフタリは、実は父親に似ているのではないか?(本人も気付いていないけれども)と、思わされた。先住民族を擁護する運動ゆえに新聞社を焼かれる叔父、ネフタリも大切にしていた原稿を父に燃やされる。だが最後に彼は、大学教育を受けるために父のもとを去る。学費を出しているのは父親そして彼の身を包んでいるのは父親のものだったマントだ。若い頃に読んだとしたら、この父親に反感しか感じなかったと思うが、この年になって読むと、理解不能な息子を間違ったやり方だとしても愛した一人の父に見える。祖国の政変の中で、迫害を受けながらも民衆に愛されたという詩人の柔らかく、だが強靱な精神の根が幼い日々にあったことを理解させられる作品。ピーター・シスによる挿絵も作品の雰囲気を効果的に伝えていてよい。