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自由をわれらに アミスタッド号事件

 

 1839年の史実を元にしたノンフィクション。当時アメリカ合衆国では奴隷貿易は違法とされたが、奴隷を前提とした農園の南部地域の反発で、すでに奴隷であるものや奴隷の子は奴隷として認められるという半端な状態であった。だが、利益が上がる奴隷貿易は密かに続けられていた。西アフリカで捕えられたセンベたちはまずハバナに到着し、アミスタット号に乗せられてアメリカに向かっていた。聡明なセンベは、冷静に船のようすを観察し、奴隷仲間と共にチャンスを見つける。鍛冶の経験があったブルナのおかげで、古釘で枷をはずし、隙をついて乗組員を襲う。攻撃してきた船長とコックは殺したが、逃げるものは追わず、操船のために二人の白人を捕まえ船を乗っ取ることに成功したのだ。しかしアフリカはあまりに遠く、食料や水が不足、おまけに謎の黒人船の噂がたち、ついに沿岸警備隊に拿捕される。船側はキューバ(当時スペイン領)で奴隷を移送中だったと主張。乗っていた黒人たちは奴隷か自由なアフリカ人かが争点となった。奴隷制度に反対する一派は、彼らを援助して奴隷解放も進めようと考えるが、奴隷制度が必要な人間にとっては、主人を殺すとんでもない奴隷を認めるようなことは許せない。裁判は最高裁まで争われ、第6代大統領の経歴を持つアダムズが黒人の弁護団についてくれた。捕まった10歳のカリー少年がアダムズに書いた手紙がとても素晴らしい。自分たち(黒人)のたちの置かれた立場を白人に入れ替えたらどんなに不当かということを素直に訴えている。裁判は勝利するが、支援者たちは奴隷解放運動に彼らを利用したいし、キリスト教布教にも役立てたい。渡航費を稼ぐために、支援者と共に見世物的な扱いを耐える中でセンベの仲間の一人は自殺。帰国できたのは、捕まった後約3年後となる。
著者は黒人ということで、奴隷廃止論者ではあっても、センベたちの救援と同時に自分たちの理想の道具にも使ったといえる白人のエゴもきちんと書いているところがすごい。しかもこの判決は例外的で、18年後には憲法は白人のためのものという判決が出たとのこと! 法律が正しいとはいえない(その社会に既定される)ことがよくわかる。社会が変わるのは簡単ではない。だが、奴隷以外の黒人を見たことがないアメリカ人に、自由な堂々とした黒人の姿を見せてくれたセンベ。あなたが救ったのは、白人も含めた人間の尊厳です。