児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

自由への道

 

 2016年、ハリエット・タブマンは黒人そして女性で初めてアメリカ紙幣の肖像に取り上げられることが決まった。アメリカ国民への調査で紙幣に扱う尊敬されるべき女性として1位となったそうだ。その91年の生涯は、200ページ足らずではとても語り尽くせない壮絶な人生だ。
奴隷の子として南部メリーランド州に生まれ6歳で働きに出される。たった1人で北部への逃亡に成功したのは27歳の時。この逃亡過程の記述は意外とあっさりとしていて、その後の活躍が目覚しい。翌年、逃亡奴隷法の強化をきっかけに家族や知り合いを救出したいと「地下鉄道」の活動を、これもたった1人から始める。「地下鉄道」とは奴隷の逃亡を助ける組織。奴隷をかくまう拠点を「駅」、リーダーを「駅長」とし、「車掌」役が逃亡過程を導く。ハリエットは、救出活動のために13回も南部と北部を往復し120人もの奴隷を救った。その後の南北戦争では、諜報員リーダーとして連邦軍側に加わり、南部連合軍の奴隷を多数救出した。しかし終戦後は、根深く残る黒人差別意識に苦しむ。その能力を高く認められたはずのハリエットでさえ、諜報員としての給料や軍人恩給は公平でなかったという。そして最後まで弱い立場の人々のために身も心も資金も捧げ、自らの名を冠した黒人高齢者のための施設で息を引き取る。
奴隷主の所有物として売り買いされる黒人奴隷。奴隷を所有し続けられるように、奴隷の身分は母親からその子へ引き継がれる。読み書きの習得を禁じられたため生年月日を記録する術もない。奴隷商人はアフリカの部族対立を利用して奴隷を連れてきた。船底にびっしりと並べられて移送される様子を示す絵。などなど、奴隷制度の非人道的なことは数々記述されても、いまだに根深くある差別意識のようになぜこのようなことを同じ人間が行えてしまうのかと考えることは読者自身にゆだねられていて、そのことを子どもが考えられるように大人からの助言が必要だ。
この本ではなぜタブマンが「神の導きを信じ」強く生きられたのかがよくわからなかったので、参考文献にあった『ハリエット・タブマン 「モーゼ」と呼ばれた黒人女性』(上杉忍、新曜社)を読みました。タブマンの培った体力、知識、技能、人脈、神への信心が、彼女の活動を成功に導いたのだと納得することができました。  (せ)