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クリスマス・セーター

 

クリスマス・セーター

クリスマス・セーター

 

 とっくに着られなくなっているのに手放せない古いセーターの思い出として物語は始まる。主人公のエディは両親に守られて幸せな子ども時代を送っていた。両親はパン屋として懸命に働いていたが、父が死んでから暮らしは傾き始める。母親は必死に働き、明るくふるまうが、エディの目から見ても家に余裕がないのは十分わかっていた。だが12歳のクリスマスにはどうしても自転車が欲しかった。懸命にお手伝いもしたのにプレゼントは母親の手編みのセーター。ありがとうとは言ったががっかりしたエディは部屋に戻るとセーターを放り出した。入ってきた母親はそれを見て「こんな扱いをしないで」と言う。その後、祖父母の家にクリスマスのお祝いに行った後も母親に悪いとは思いつつ、反抗的な態度をとり、疲れているから泊まりたいと母がいうのに、家に帰ると言い張った。帰り道、疲れ果てた母親は居眠り運転をしてしまい、交通事故を起こして即死、エディは祖父母に引き取られるが、絶望に取り付かれる。大好きだった茶目っ気たっぷりの祖父と優しい祖母にも反抗し続ける。貧乏を憎み、新しくできた金持ちの友人べったりになるエディを、祖父は必死で立ち直らせようとする、そして実は祖父母が自転車のプレゼントを買っていてくれたこと。だが、自分が反抗して帰ってしまったためにそれが受け取れなかったという大きな皮肉に直面する。どんどん自分を追い込んでいくエディと、助けてやれない苦しみに耐える祖父母、浮浪者のような不思議な隣人ラッセル。そして、ついに家出を決行したエディは、激しい嵐と直面する。絶望へと自ら入り込んでいくことがとめられないエディのリアルさが、読んでいるとつらくなる。最後は思いがけないハッピーエンドで終わるが、作者は実際にエディと同じ年ごろに、母親から手編みのセーターをもらって投げ捨て、その後まもなく母を亡くす体験をしたというが、それは本当に辛い体験であったろう。悲劇を、自分や誰かのせいにせずにただ受け入れる、ということの難しさを思わされるが、だからこそ中高生に読んでもらいたいと思う。