児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

平和のバトン(2020課題図書 中学生の部)

 

平和のバトン: 広島の高校生たちが描いた8月6日の記憶
 

広島市立基町高校創造表現コースの生徒が、被爆体験証言者から直接聞き取りをしてその体験を油絵にする『次世代と描く原爆の絵』プロジェクトについて、実際にかかわった高校生や被爆者から取材して書かれた本。ちょっと体験談の羅列的で、読みやすいのかもしれないが、やや単調な印象を受けた。だが、少しづつ読み進めていくうちに、体験者ではない世代が、体験者と関わり、自分の描きたいように描くのではなく、他者の記憶を再現しようとすることで戦争体験を考える意味が少しづつ理解できるようになっていく。それを素直に書けば感想文になりそうで、書きやすい本と言えるかもしれない。だが、同時にいかにも紋切り型に書いてあるようにも感じられてしまった。原爆は許してはいけない、戦争は恐ろしい、もちろんそうなのだが、ならばなぜ当時は戦争をしてしまったのだろう? この恐ろしい爆弾を落としたアメリカに対して謝罪を求めないのは、当時の日本の戦争のあり方とどうかかわっているのだろう? 戦争は天災ではなく、人災だからこそ止めることができるはずだが、それはどうすれば止められるのだ?(例えば、あんなに反対していても、沖縄には新しい基地が粛々と作られている)。表面的に「戦争はいけない、原爆を使ってはいけない」と軽く書けてしまうだけに、もう一歩踏み込んで考えるヒントが欲しい本であると感じた。