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九時の月

 

九時の月

九時の月

 

ファリンは15歳。イランの首都で名門女子校に通っている頭のいい女の子だけれど、母さんは常に不満ばかり言っている、革命で追放された国王とも親戚関係にある名門の血筋が誇りで、平民出身の父さんが不満なのだ。父さんは、不法に入国した難民に職住だけを与え、無給で使うことでお金を儲けている建築業者だ。学校でも孤立して、厳格なコブラ校長や告げ口屋の級長パーゴルに目をつけられている。禁じられているアメリカのドラマが大好きで悪霊ハンターの小説を書いて、将来はハリウッドで映画化を夢見ているような女の子だ。そんなファリンの前にサディーラが現れる。聡明で美しく、常に弱い立場の人に手を差し伸べようとするサディーラ。ファリンは、彼女にあこがれ、一緒に行動することで自分も強くなった気がした。そして、彼女を愛していることに気付き、彼女も自分を愛してくれた。二人は毎夜9時に月を見て互いを思いあおうと約束する。だが、イランでは同性愛は犯罪。校長は二人に別れるように言い、バーゴルたちに監視させた。理解があるサディーラの父も怒って、彼女の結婚の準備をしてしまった。二人は一緒に逃げることを計画するが、折から政府の手入れがあり、両親は逃亡。二人は同性愛者として捕まって死刑判決を受けた。父の運転手アーマドの助けで、死刑直前に助けられることができた。だがイランを脱出し、パキスタンに入って逃れて安心したのもつかの間、先に逃げたと聞かされていたサディーラが死刑にされたこと。両親は彼女を助けてくれたが、報酬として彼女をアーマドの妻にしたことを知らされ、絶望する。著者によると、これは著者が実際に聞いた話を元にしているということ。ただ、読んでいて良く分からかかったのは、不仲なファリンの両親は、ファリンの母の親に反対され結婚したらしいが、現在不仲なのはなぜ? サディーラにあこがれるファリンの気持ちはわかるけど、サディーラから見たファリンって? この作品のモデルは、たぶんこの状況から抜け出したらしいけどどうやって? など、なんだか未消化なままで残る事柄が多い。ファリンが反感しか持っていなかったコブラ校長が、それなりに考えていることがわかる場面が私は好きだが、ファリンはやはりあまりわかっていない感じ! もう少し何かが欲しい。