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アーニャは、きっと来る

 

アーニャは、きっと来る

アーニャは、きっと来る

 

 スペイン国境の山にあるフランスの小さな村、羊飼いのジョーは12歳だが、一度も村から出たことがない。父親は第二次世界大戦の戦場に送られ、ドイツ軍の捕虜になってしまったが、戦争は遠い世界だ。ところが、羊を追う野原で熊を見つけ、村が総出で熊狩りの騒ぎとなった日に、どこか見覚えのある見慣れぬ男と出会った時から事件が始まる。男は、かつて一度山を訪れた親子の父親だった。気難しやで嫌われているオルガータばあさんの娘婿でユダヤ人。自分が助けたユダヤ人の子どもと共に、ひっそりばあさんのところに隠れていたのだ。逃亡の途中で娘とはぐれたが、娘のアーニャがきっとこの祖母の家にたどり着くと信じて待ちながらユダヤ人の子を助ける活動をしていたのだ。だが、こんな僻地の村にもドイツ人がやってきた。国境警備が目的。とはいえやってきたのはくたびれた感じの高齢の兵士が多く、穏やかだった。当初は反感を感じていた村人たちだが、徐々に打ち解けるようになってきた。ドイツの伍長の娘が空爆で死んだという報がもたらされると、ジョーは伍長に同情を感じないわけにはいかなかった。一方で国境警備は強化されているのに、ユダヤ人の子どもたちは徐々に増えて来た。オルガータばあさんと若いころに親しかった祖父も、いつの間にか逃亡計画に加担。父ともう一人が釈放されて帰ってきたが、結核に侵され、心も病んでいた。だが、なんとかしてユダヤ人の子どもたちを助けようという逃亡計画の大詰めで、家族は団結し、父親も気力を取り戻す。そして村中が協力して、夏の放牧のための一大行事を装い、ユダヤ人の子たちを村の子に紛れて山の上に連れていく計画が決行される。ドイツ軍の目の前を行く牛や羊の群れを追う村の子に扮したユダヤ人のこどもたち。果たして計画は成功するのか、そしてアーニャは? と最後までドキドキしながらひっぱられるようにして読んでしまう。決して戦争を望んでいなかったドイツの高齢の兵士。だが任務となった時には、占領軍兵士としての姿しか見せることができない。戦争は、攻める方もまた悲劇であることを教えてくれる。