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明日をさがす旅 故郷を追われた子どもたち

 

 1938年ドイツに住んでいた12歳のヨーゼフは家を襲撃され、突然国を出ていくように言われる。ユダヤ人だという理由で。家族はキューバに向かうセントルイス号に乗り込むことができたが、半年の拘束後にやっと合流し再会した父親は、心を病んでいた。

1994年キューバに住んでいた11歳のイサベルは食料を求める暴動を目撃する。一家は未来を求めて隣家と協力してアメリカに向けて出国をする決意をした。

2015年シリアはアレッポに住むマフムードは住む家を爆弾で吹き飛ばされたが、両親と弟、妹は幸い全員無事だった。父親は、難民の受け入れをしてくれるドイツに向けて旅することを決意する。時代は異なるが、国を追われた3人の子どもたちが難民としてたどる困難の物語。民族や宗教の違いに基づく憎しみの激しさは、自分と異なるものへの嫌悪感や優越感。逃亡の途中、ユダヤの星をつけていなければ見分けがつかないのに、なぜ拒否されるのかと悩むヨーゼフ。故郷を離れることで、自分はキューバの心であるクラベのリズムを失うのではないかと恐れるイサベル。目立たないことが生き延びる術だと感じながら、姿を見せなければ手を差し伸べてもらえないことにも気付くマフムード。

セントルイス号はキューバに寄港できずに受け入れ先を求めてさまよう。それは他国もユダヤ人を拒否するようすによって世界に自分の主張を正当化しようとするヒトラーの作戦でもあった。キューバの難民に対し、アメリカは「ぬれた足、かわいた足」政策をとる。海上で見つかれば送還、上陸した後にみつかれば難民として認める。そしてマフムード一家は、何度も足止めをされながらも先を進もうとあがく。最後に、この三つの物語はリンクする。難民に同情するのはたやすいが、だとすれば日本が難民をほとんど受入れしようとしない現実のことも考えなければならない。子どもたちと一緒に、自分が加担する側に立っていないかを考えながら読んでいきたい。